尿検査で区別というけど…
尿検査で区別というけど…
見逃されやすい躁うつ病と大うつ病の鑑別を尿検査で行えるというのですが、
臨床で本当に役に立つでしょうか?
躁うつ病、現在では双極性感情障害(以下MDI)と呼ばれていますが、
これには、躁状態が重症のⅠ型と、それが軽症のⅡ型の二種類があります。
Ⅰ型は誰が見てみ分かるような激しい躁状態があるので、
Ⅰ型を見逃すことはまずありえないと言えるでしょう。
受診時に躁状態が治まっていても、そのエピソードは強烈に本人家族に認識されているため、
診察の時点で報告されることが常であるからです。
ところが問題は、Ⅱ型です。
Ⅱ型の場合、本人が絶好調と思っているだけでなく、
仕事も普通に、いや普段より調子よく破綻もなくできるため、
本人家族ともに異常であるとは気づきにくいことが治療上も後々問題となってきます。
現在の治療指針として、MDIに抗うつ薬を原則的には使用しないことが推奨されています。
MDIのⅡ型の方に抗うつ薬を使用してⅠ型すなわち激しい躁状態が誘発されることが皆無ではないでしょうから、
うつ病とⅡ型MDIを鑑別することは非常に重要な判断となります。
しかし、ここで問題となるのが、鑑別のための検査の精度ということになるでしょうか。
この検査の精度には、2種類あって、
(1)Ⅱ型MDIをⅡ型MDIと診断できる確率と、
(2)Ⅱ型MDIでない病態をⅡ型MDIでないと診断できる確率で、
(1)を感度、(2)を特異性と言います。
共にその確率が高ければ高いほど有用な検査ということになるのです。
中国の重慶医科大学が、報告したガスクロマトグラフ質量分析法と核磁気共鳴分光学的メタボノミクスを使用した尿検査は、
報告(下記)によれば約90%の確率でMDIと大うつ病とを鑑別できるとのことですが、
この確率は、感度と特異性をミックス統合した判断の基準を提供するAUCで判断しています。
横軸に偽陽性false positiveの割合、縦軸に感度true positiveの割合をとってプロットしたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線といい、
その曲線下の面積をAUC(Area under the curve)は鑑別能力の良さを表し、最大値は1で完全な分類が可能なとき1となります。
上記報告では、訓練された人間による鑑別が0.913で、尿検査からの鑑別0.896であったとのことでした。
この検査方法は、高額の検査コストがかかる機器を使用することや、熟練した専門家が検査を使わず診断することに比べて優れているわけではないこと、
そして何より、専門家でも診断に困るような(上記のAUCが0.7とか0.6とかになる症例群)症例を正確に鑑別することについてはまだ何も研究されていないという点から、
臨床応用はまだまだ先のお話であり、それが可能かどうかも研究されるはるか以前の研究段階にあるといえる検査でしょう。
これは日本発の光トポグラフィーと同様の検査であるということでしょう。光トポグラフィーについてはココをクリック
鑑別に困る症例以外では、臨床的にこれらの検査を行う患者さん側のメリットはほとんどなく、
ただ将来の医学の進歩に貢献する使命感を持っている方には意義があるというものでしょうか。
さてさて検査で簡単に疾患を診断できる時代が来るのはまだまだ先のことのようです…
Chen JJ et al.
Divergent Urinary Metabolic Phenotypes between Major Depressive Disorder and Bipolar Disorder Identified by a Combined GC-MS and NMR Spectroscopic Metabonomic Approach. Proteome Res. 2015;14:3382-9.