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FrontPage/2026-05-09

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恐怖は正しく使おう――ハンタウイルスと「コロナの記憶」

「また何か来た」と思った人は、少なくないだろう。

2026年5月、大西洋を航行中のクルーズ船でハンタウイルスの集団感染が報告された。乗船者のなかに日本人が含まれていたこともあり、国内でも瞬く間にニュースが広がった。感染者8人、死者3人、致死率40〜50%という数字が並べば、人々が騒ぎ立てるのも無理はない。しかし、ここで少し立ち止まって考えてみたい。

ハンタウイルスとは何者か

ハンタウイルスは、ネズミなどのげっ歯類を宿主とするウイルスで、その排泄物を含む粉じんの吸入や、汚染された飲食物を介して人に感染する。感染の入り口は基本的に「動物から人」であって、「人から人」ではない。

WHOの専門家も「ヒトからヒトへの感染は完全には除外できないが、インフルエンザや新型コロナのように広く伝播するウイルスではない」と説明しており、過度なパニックや渡航制限は不要とされている。

日本国内では1984年以降、ヒトでの感染事例の報告はなく、現代の日本に住む人々にとっては、ほぼ縁遠い病気だ。厚生労働大臣も「日本に大きな影響は及ばない」との見解を示している。

なぜ恐怖が増幅されるのか

私たちはコロナ禍という5年越しの経験を通じて、「未知のウイルス」への警戒心を深く刻み込まれてしまった。あの頃、「大したことはない」と言われていたウイルスが、世界を一変させたのだから。

これは医学的に「過去の恐怖体験によるリスク認知の歪み」と呼ぶことができる。一度強烈な恐怖を体験すると、脳は自動的に警報を鳴らし続ける。コロナが残したトラウマが、ハンタウイルスという新顔に過剰反応させているのかもしれない。

だが、恐怖には正しい使い道がある。根拠のない恐れは心を疲弊させ、社会を混乱させる。一方で、適切な警戒心は私たちを守る盾になる。

適切な対応とは

ハンタウイルスに関して、今の私たちができることはシンプルだ。流行地域を訪れる際はげっ歯類との接触を避け、環境を清潔に保ち、食品は適切に保管する。それだけで、感染リスクは大幅に下がる。

特別な準備も、マスクの買い占めも必要ない。ただ、情報を正しく読み取り、日常の衛生習慣を大切にするだけでよい。

情報と向き合う力こそが「免疫」

新しい感染症の情報が飛び込んでくるたびに、私たちは選択を迫られる。パニックになるか、無視するか、それとも冷静に向き合うか。

コロナ禍が教えてくれた最大の教訓は、ウイルスへの恐怖ではなく、情報を見極める力の大切さではなかったか。致死率や感染者数といった数字を、文脈なしに受け取るのではなく、「どこで」「誰が」「どうやって」という背景とともに理解すること。それが、現代を生きる私たちに求められる、もっとも重要な「免疫」だと思う。

恐怖は正しく使えば、命を守る羅針盤になる。過剰な恐れは、手放していい。


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