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Tag: うつ病 ミトコンドリア 炎症 抗酸化 精神医学

うつ病とミトコンドリア ―「炎症との悪循環」という視点

うつ病(大うつ病性障害、MDD)の原因というと、これまでは脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスが注目されてきました。ですが近年、細胞の中でエネルギーを作る小さな器官「ミトコンドリア」の不調こそ、うつ病の中心的な病態の一つではないか――と考えられるようになってきたのをご存じでしょうか。

しかもそれは、体の中で静かに続く「炎症」と手を取り合い、抜け出しにくい悪循環を作っているらしいのです。今日はその仕組みを、図を交えながらのぞいてみたいと思います。

ミトコンドリアで何が起きているのか

うつ病の患者さんの細胞では、ミトコンドリアにいくつもの異常が重なっていることが報告されています。エネルギー(ATP)を作り出す働きの低下、ミトコンドリア独自の遺伝子(mtDNA)の傷、傷んだミトコンドリアを片づける品質管理機構(ミトファジー)の破綻、そして酸化と抗酸化のバランスの崩れ(レドックス不均衡)――。いわば、細胞の発電所があちこちで故障し、後片づけも追いつかない状態です。

炎症との「負のスパイラル」

やっかいなのは、この故障が免疫の暴走を呼び込むことです。傷んだミトコンドリアからは、本来外に出るはずのない成分(mtDNAやカルジオリピンなど)が漏れ出します。私たちの体はこれを、細菌の断片によく似た「危険信号」(DAMPs=損傷関連分子パターン)として受け取り、自然免疫のセンサー(cGAS-STINGやNLRP3など)が作動して、炎症性物質(IL-6やTNF-αなど)を放出します。

ところがこの炎症物質と過剰な活性酸素(ROS)は、今度はミトコンドリアそのものを傷つけてしまうのです。すると、さらに危険信号が漏れ、炎症がまた強まる……。外から新しい刺激がなくても、炎症とミトコンドリア障害が互いを燃料にして回り続ける。これが「双方向かつ自己増強的」と表現される悪循環です(図1)。

 ミトコンドリア機能障害と炎症の悪循環

お薬はこの輪にどう働くのか

では治療はどうでしょう。興味深いことに、作用の仕方に違いが見えてきています。従来型の抗うつ薬(SSRIなど)は、時間をかけてゆっくりとミトコンドリア機能を立て直し、酸化・炎症ストレスを鎮めていくようです。一方、ケタミンのような速効性の薬は、急性期に細胞の代謝を組み替え(代謝リプログラミング)、ミトファジーを促してすばやく機能回復をもたらすと報告されています。同じ「回復」でも、たどる道すじが違うわけですね。

さらに、ミトコンドリアを直接ねらう抗酸化薬、代謝を調整する薬、そしてサイケデリック化合物(幻覚剤由来の物質)など、これまでとは仕組みの異なる治療も研究が進んでいます(注1)。

おわりに

「心の病」と聞くと脳だけの問題のように感じますが、その足元では、細胞のエネルギーと免疫が静かにせめぎ合っているのかもしれません。この負のスパイラルをどこで断ち切るか――そこに、次の世代の治療のヒントが隠れているのではないでしょうか。



(注1) 本稿は基礎・臨床研究の知見にもとづく一般向けの解説であり、個々の治療方針を示すものではありません。


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