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実情と違うような…

実情と違うような…

某経済記事に精神障害者の雇用は企業にメリットが多いので促進されているとありましたが、何か違うような気がします。

記事によれば、平成30年4月施行の精神障害者の雇用義務化が背景にあるとしながらも、企業にもメリットがあるとありました。

精神障害になった為に退職となることを防ぎ、そのような人を雇用し続けることで企業は、

①優秀な人材の流出を防ぐことができる②退職者が出ることによって生じる新規採用コストを削減できる③新規採用に伴う新人教育のコストも削減できる④ブラック企業ではないというように企業イメージを高められる、などというのです。

④は確かにそうかもしれませんが、①-③については大いに「?」マークがつくように思われます。

小生も医師になって30数年が過ぎようとしていますが、20-30年前ならいざ知らず、近年、精神疾患に罹患したからといて退職する人は殆どいないというのが実情です。

医師の側も「退職を考えるなら、まず休業して病気を治し、治って客観的に判断できるようになるまで決断は延ばしましょう」「選択肢はできるだけ沢山残しておきましょう」「辞めれば辞めたあとのという選択肢しか残りませんが、休業すれば辞めるという選択肢と復職するという選択肢が残ります」などと助言するので、病気になったから退職する人は殆どいません。

つまり上述の①-③の状況自体が生じないのです。

さらに疑問であることは、雇用率に算定できる精神障害者の定義です。

厚生労働省職業安定局 障害者雇用対策課の資料によれば、算定対象は精神障害者保健福祉手帳所持者のみであるとしています。

精神障害者保健福祉手帳を貰えるのは、日常生活は普通に行えるが社会生活に障害がある者(3級)以上の障害を有する者です。

2級では、日常生活上も多くの介助を要する者となります。

①にある「優秀な人材」というのは、企業側にとっては単に職業的経験や技能に優れているだけでなく、(1)突然休んだりせず安定して就労できる(2)随時残業など無理がきく(3)上手に人事管理ができる(4)交渉力があるなどという資質を有しているということなのです。

実際、労働政策審議会の障害者雇用分科会の労働者側委員から、

[1]精神障害者は症状が不安定で定着率も低い[2]それのため継続的に就労できるかの判断は現行のトライアル雇用期間3カ月では短か過ぎ、6カ月~1年といった期間制限の緩和が必要[3]就労の可能性や雇用管理などに医師との意見交換など手間がかかるなどという反対意見が強調されたとのことです。

臨床経験からも上述の(1)-(4)を満たす精神障害者保健福祉手帳の所持者など皆無です。

精神障害者保健福祉手帳を持っている方の殆どは、就労できている人でも手取り月収でいえば1-12万円の就労条件下で働いている方が大半です。

身体障害者の一部に見られるような高度の技術を保有して休むことなく安定して無理のきく働き方ができるような精神障害者保健福祉手帳を有している人など稀有の存在です。

精神障害者保健福祉手帳を有する人の就職は簡単なことではありません。

皆さん非常に苦戦しています。

企業側も採用には慎重であるような印象を皆さん感じていると述べています。

情報提供的経済記事であっても、精神疾患に悩む人の実情や社会的課題の本質を配慮した記事を掲載してもらいたいものです。

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