服薬と自動車運転
服薬と自動車運転
平成26年5月に「自動車運転死傷行為処罰法」が施行され、平成26年6月には「改正道路交通法」が施行されました。
特に前者は、薬物の影響下および躁うつ病などの精神疾患を含めた病気の影響下にある交通事故を起こした者が、厳罰の対象となるように規定されています。
これは、既に運用されている「危険運転致死傷罪」において定義されている「正常な運転が困難であった」ことの立証が難しく、
それゆえ、より刑罰が大幅に軽い「過失運転致死傷罪」が適用されてしまうことの対策として、
「今までの危険運転致死傷罪(懲役20年まで)」と「過失運転致死傷罪(懲役か禁固7年までor100万円以下の罰金)」の中間的刑罰の領域を設定して、
「危険運転致死傷罪」を刑罰が「より重いもの(懲役20年まで)」と「より軽いもの(懲役15年まで)」に二分化して適用しやすくしたといえるでしょう。
新設された罪状の要件は、正常な運転に支障が生じる「おそれ」がある状態ということであり、
この状態を誘発している原因が、「薬物もしくは病気の影響下で」というのですが、
問題点は、
①病気には統合失調症や双極性障害は言うに及ばず「うつ病」まで含まれており、適用範囲が非常に広くなっている
②薬物に治療で通常使用している適法薬剤まで含まれる可能性がある
ということなのです。
①の病気に関しては、「急性のの精神病状態など」と法務省はコメントしているので、単にうつ病に罹っている人が運転して事故を起こしたからといって本刑罰が適用されるという心配はないでしょうが、
②の薬物については、多くの懸念が残ります。
まず、製薬会社の添付文書には、向精神薬の殆どすべてに「眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること」というような文言が必ず記載されています。
運転等に従事「させない」ように注意することというのは、処方する医師が患者さんに「運転してはいけない」と告知する義務を負うということなのでしょうか?
また「本剤投与中」という文言は、薬剤が体からなくなるまでという意味なのでしょうか?
そうならば、血中半減期(身体から半分なくなるまでの時間)が一番短い2.9時間(8.7時間後に血中濃度が8分の1になっている)の睡眠導入剤を服用している患者さんは、翌日、自動車を運転してはならないということになり、
その他、それより半減期が長いお薬しかありませんので、
例えば夕食後のみ1日1回で服用している患者さんも、定期的に服用している間は運転をしてはいけないということになります。
都心ではいざ知らず、郡部の方で公共の交通機関がないか、あっても1日に数往復しかないようなところに住んでいる患者さんは、
服薬中は仕事にも買い物にも行くなという論理になります。
果たして、司法当局がこのような法律の運用を行うとは信じたくはありませんが、はっきりとした運用方針が定められているようではないようです。
それとは別の面から問題もあります。
服薬している患者さんが、不運にも死傷事故を起こしてしまった場合、任意保険会社が服薬(アルコールや違法薬物と同じ)を理由に保険金を支払わない可能性も否定できないのです。
当然、飲酒運転などでは保険がおりません。
これと同列に扱われる可能性があるということなのです。
果たして、司法当局も保険会社もどのような対応をしてくるかわからない現状では、今後の経過をひたすら見守ことしかないようです。
もし、お酒ではありませんが、飲んだら乗るな!乗るなら飲むな!ということにでもなれば、
多くの、自動車を仕事で使用する営業職などの方々は、うつ病や不眠症になっても治療ができない!治療するなら営業職を退け!…なんていうことになってしまうかも知れません。
さてさて、本当にどうなるか心配です…