小児や思春期にある子ども達への精神のお薬の安全性
小児や思春期にある子ども達への精神のお薬の安全性
イタリアのパドヴァ大学で研究するMarco Solmiらが、34.8万人弱の小児思春期のお薬について調べた研究報告を分析した結果についてのメタ解析という分析研究をWorld Psychiatry誌2020年6月号に投稿したので紹介します。
安全な薬剤はどのようなものだったか?
小児や思春期にある子ども達に投与して安全なお薬は次のようなものでした。
- 抗うつ薬(うつ病のお薬)はエスシタロプラム(商品名レクサプロ)、fluoxetine(日本未発売)
- 抗精神病薬(幻覚や妄想に効くお薬)はルラシドン(商品名ラツーダ)
- ADHD治療薬(ADHDの症状を改善するお薬)はメチルフェニデート(商品名コンサータ)
- 気分安定薬(躁うつ病や衝動性に効くお薬)はリチウム(商品名リーマス)
副作用と関連が深い薬剤とは?
文献的な分析から副作用と関連が強かった薬剤は以下の通りでした。
- 抗うつ薬のベンラファキシン(商品名イフェクサー)
- 抗精神病薬のオランザピン(商品名ジプレキサ)
- ADHD治療薬のアトモキセチン(商品名ストラテラ)とグアンファシン(商品名インチュニブ)
- 気分安定薬のバルプロ酸(商品名デパケン)
私の臨床感覚からすると、ベンラファキシン(商品名イフェクサー)が他の同種(SNRI)の薬剤に比べて副作用の発現率が高いとも思えません。問題は有効量以下の容量からしか使えないという点でしょうか。
オランザピン(商品名ジプレキサ)は同種のお薬に比べて確かに過鎮静が多いように思えます。さらに食欲亢進と体重増加は多いですね。
ADHD治療薬で覚醒剤とも言えるメチルフェニデート(商品名コンサータ)で睡眠障害や食欲低下が生じるのは納得ができるものの、成人に使う場合にはアトモキセチン(商品名ストラテラ)とグアンファシン(商品名インチュニブ)がメチルフェニデート(商品名コンサータ)より副作用が出やすいとの印象はないのですが・・・多くの症例で比べるとアトモキセチン(商品名ストラテラ)とグアンファシン(商品名インチュニブ)の方が副作用が多いのでしょうかねぇ?
また、バルプロ酸(商品名デパケン)でそこまで副作用が出る例を経験することはないのですけど・・・この点は私の臨床感覚とは違います。
関連が認められた副作用は?
次の薬剤種と副作用の関連が強く認められました。
- 抗うつ薬では「悪心・嘔吐・副作用による中止」
- 抗精神病薬では「過鎮静・錐体外路症状・体重増加」
- ADHD治療薬では「食欲低下・睡眠障害」
- 気分安定薬では「過鎮静・体重増加」
抗うつ薬に関しては特にSSRIとSNRIというカテゴリーのお薬では「悪心・嘔吐」はよくみられる副作用です。ただ、悪心・嘔吐で服薬を中止する例は数%であるとの印象を持っています。他のカテゴリーの薬剤に比べて中止例が多いという印象はそこまでありません。しかし、言われてみれば他の薬剤よりは吐き気で中止する方はチョットだけ多いかも知れませんね。
「安全=有効」「副作用がある=無効」ではありません!
安全なお薬が有用で、副作用と関連が深いお薬が有用でないということではありません。また、副作用の出方は個人差が大きいので、副作用と関連が大きいとされたお薬で必ず副作用が出るとは限りません。逆に安全性の高いお薬で副作用が出ることもあります。各個人に適したお薬を選んでもらうといいですね。
結論:どうしたらいいか?
小児と思春期の子どもの精神科治療に精通した小児思春期精神科医に診てもらうということに尽きます。
- 「子どものこころ専門医」
もしくは - 「小児科専門医かつ精神科専門医」
- 「日本小児心身医学会認定医」
- 「日本小児精神神経学会認定医」
- 「日本児童青年精神医学会認定医」
- 「日本思春期青年期精神医学会認定医」
以上のいずれかの専門医あるいは認定医の資格を持っている医師に治療してもらうと安心です。
子どもを診てもらおうと思う時には、病院やクリニックのホームページでこれらの資格を持っているかどうかを確認してから受診するのがいいでしょう。
そして、それらの資格を持っている医師が診てくれること同時に、小児思春期のカウンセリングに精通したカウンセラーが複数(数人以上)いる病院やクリニックであることも大切だと思います。
ただし、カウンセリングは保険適応外で自費になることが多いので事前に確認しておくことをお忘れなく!
参考引用文献
Safety of 80 antidepressants, antipsychotics, anti-attention-deficit/hyperactivity medications and mood stabilizers in children and adolescents with psychiatric disorders: a large scale systematic meta-review of 78 adverse effects. Journal World psychiatry : official journal of the World Psychiatric Association (WPA). Marco Solmi, et. al. 2020 Jun;19(2);214-232. doi: 10.1002/wps.20765.