心的外傷後ストレス障害(PTSD)に認知症の薬が効くって本当?
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に認知症の薬が効くって本当?
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターのホームページによると、認知症のお薬として使用されているメマンチンが心的外傷後ストレス障害 (以下PTSDと表記)に有効であることが分かったとのこと。
なぜ認知症のお薬をPTSDに使おうと思ったの?
マウスの研究成果から記憶を司る海馬という脳の領域にある神経細胞が新しく作られると記憶が消去されることが分かっています。
そして、認知症の治療薬であるメマンチンは脳神経細胞が死滅することを防止する効果があるとされていますが、さらに東京大学の研究ではメマンチンをマウスに投与すると海馬の脳神経細胞が新しく作られて、かつ恐怖記憶が消えていくことが分かりました。
この研究結果を根拠としてメマンチンをPTSDの治療に利用できるのではないかと考えたらしいのです。
PTSD治療の第一選択は?
PTSDの治療で最も効果が高いのは持続エクスポージャー療法というものです。
この治療は乱暴な言い方をするなら、安心できる環境の中でトラウマ記憶を程度の軽いものから徐々に思い起こしてもらい、段々と程度の重いトラウマ記憶を思い起こし続けるようにするというものです。
しかし、治療に経験豊富な治療者が少なく、また治療に対する患者さん側のストレス度も高いため、多くの精神科クリニックでは持続エクスポージャー療法は行われていないのが現状です。当然、私のクリニックでも行っていません。
当たり前のことでしょうけど、患者さんにとっては努力もスキルもいらない方法でPTSDを治療してもらえれば一番楽であるに違いありません。
メマンチンと持続エクスポージャー療法の有効性は同等!
PTSDの第一選択の治療法である持続エクスポージャー療法の有効性は効果量が1.5以上と報告されているようです。
一方、今回の国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターの研究では、メマンチン治療の効果量は1.35であり、これは持続エクスポージャー療法に近い効果を示すものであったとしています。
参考:効果量とは?
効果量の計算方法にも種類があるのですけど、ここで示されている効果量の数値が1を超えているので、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターで計算された効果量、例えば1.5というのは、メマンチンを使用した人の方が、メマンチンを使用しなかった人より、PTSDの改善を測定する指標の得点の平均値が、標準偏差の1.5倍よりもよかったということを示しているということです。
言い換えると、メマンチンを使用しなかった人の約93.3%がメマンチンを使用した人の平均値よりPTSDの改善の値が低かったということを意味しているのです。
繰り返しになりますが・・・
私のクリニックではPTSDの治療は行っておりません。というのは、私には持続エクスポージャー療法を行うスキルがないからです。PTSDの治療を専門的に行っている医療機関に心当たりがないものですから、PTSDの治療を行っている医療機関をご紹介することもできません。ご理解の程、お願いいたします。