新型コロナウイルス感染に抗うつ薬が効果?
新型コロナウイルス感染に抗うつ薬が効果?
九州大学広報室は、令和3年3月17日、古い抗うつ薬が新型コロナウイルス感染症に有効であるとの研究結果が得られたとプレスリリースしました。それによると・・・
三環系抗うつ薬の1つが新型コロナウイルスの感染を防ぐ効果のあることが判明したというのです!
ただし、九州大学広報室がプレスリリースした研究は、まだ学術論文には掲載されていないプレプリントというものであり、学術雑誌の検閲評価を受けていない査読前の研究である点は注意が必要であるとか。
新型コロナウイルス感染症に効くのはクロミプラミン!
クロミプラミンの商品名はアナフラニールというもので、三環系に分類される古典的な抗うつ薬です。SSRIという新しい抗うつ薬が販売される前は、結構、使われていました。
うつ病だけではなく、不潔恐怖や確認強迫などを代表とする強迫性障害の特効薬としても広く使用されていたものです。
このクロミプラミンが新型コロナウイルス感染症に効くというのはどういう具合に効くというのでしょうね?
クロミプラミンはコロナの侵入をブロック!
新型コロナウイルスの原種(野生型)か変異型かに関わらず、細胞膜にあるACE2受容体(angiotensin converting enzyme 2 受容体)というものにウイルスが結合することで細胞内に侵入することが分かっています。これをACE2内在化というのだそうです。
クロミプラミンは新型コロナウイルスのACE2内在化(細胞内に侵入すること)を防ぐ作用があるようなのです。研究の結果、クロミプラミンはACE2内在化を約50%抑制することが分かりました。
このようなメカニズムでクロミプラミンは新型コロナウイルスへの感染を防ぐのです。
クロミプラミンは新型コロナウイルスの増殖も抑制!
新型コロナウイルスに感染した後からクロミプラミンを投与した場合にも、新型コロナウイルスの増殖を抑えることができることも分かりました。
新型コロナウイルス感染した1時間後にクロミプラミンを作用させても、クロミプラミンの濃度が高くなるほど新型コロナウイルスの増殖を非常に強く抑えるという結果が得られたということです。
少し内容を紹介すると、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞に新型コロナウイルスを感染させてから1時間後に、クロミプラミンで心筋細胞を処置しても約99%の抑制効果が得られたのでした。
レムデシビルとの併用によるで効果増強!
実験の結果、クロミプラミンとレムデシビルを併用すると新型コロナウイルスへの感染がより効果的に阻害されることもわかりました。
他剤と併用で効果増強?
クロミプラミンと新型コロナウイルス感染症治療薬レムデシビルやデキサメタゾン、開発中のナファモスタットとは作用機序が異なるため、クロミプラミンを他の新型コロナウイルス感染症の治療薬と併用することで、相乗的に治療効果がアップすることが期待されます。
作用機序から期待される強み
クロミプラミンは新型コロナウイルス側に作用するのではなく、感染する細胞側の「ウイルス取り込みシステムに作用する」ため、いま問題となっている変異型ウイルスに対する効果も期待でき、今後に生じる新型コロナウイルスの変異にも対応できる可能性を持っているのです。
余録:新型コロナウイルスが感染する仕組み
膜貫通型セリンプロテアーゼ TMPRSS2という酵素が新型コロナウイルスのスパイ ク蛋白質を活性化し、感染する細胞の細胞膜にあるACE2受容体に結合することで細胞内に侵入することができるようになるのです。
遺伝情報をコードされている新型コロナウイルスのRNAは、酵素(ある化学反応を促進する働きのある成分)の働きも持っています。
細胞内に侵入した新型コロナウイルスのRNAが侵入した細胞にあるリボソームに結合します。すると、リボソームでRNA合成酵素が作られます。
そして、このRNA合成酵素が新型コロナウイルスのRNAをもとにして新型コロナウイルスのRNAをどんどんコピーしていくことになるのです。
コピーされたRNAは、新型コロナウイルスの構成要素を作るように作用し出して、作られた新型コロナウイルスの構成要素が結合して、さらに感染した細胞内の小胞体にそれが運ばれて新型コロナウイルスの膜蛋白質が作られ、その膜蛋白質が小胞体膜に取り込まれます。
新型コロナウイルスの膜蛋白質が、
すでに作られた小胞体に運ばれている新型コロナウイルスの構成成分を包み込むように切り取られて、新型コロナウイルスの子ウイルスが作り出されるのです。
共同研究者
- 九州大学大学院薬学研究院生理学分野(自然科学研究機構兼務)の西田基宏教授
- 国立医薬品食品衛生研究所薬理部の諫田泰成部長の研究グループ
- 九州大学大学院農学研究院
- 工学研究院
- 自然科学研究機構生理学研究所生命創成探究センター
- 医薬基盤・健康・栄養研究所
- その他等
との共同研究らしいです。
なお、私はこの研究には一切関わっていおませんので、悪しからずm(_ _)m