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ADHDは過剰に診断されているのか?過剰診断は有害?

ADHDは過剰に診断されているのか?過剰診断は有害?

抗うつ薬の1つであるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)がうつ病の特効薬であるように喧伝されてから、うつ病と診断された人が増えたという有名な事実があります。これと同様に、発達障害の1つであるADHD(注意欠陥多動性障害)も、ADHDに対する治療薬が使用できるようになってからADHDと診断される人が増えているというのです。これに関連する学術報告がなされたので紹介します。

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ADHD

ネタバレの結論:ADHDは過剰に診断され過剰に治療されている!

  • ADHDは「過剰に診断」されている!
  • ADHDは「過剰に治療」されている!

これはシドニー大学(オーストラリア)の研究者が18歳以下の人について調べた多くの文献を精査して得た結論です。大人について同様の研究はないので明言はできないものの、恐らく大人での過剰診断と過剰治療は未成年に対するものより多いのではないかと思われます。

過剰診断となる理由は?

論文によると、一般医と専門医の診断率を比較したところ、専門医による診断の方がADHDと診断される割合が少なかった。つまり、より厳密に診断されればADHDと診断される患者は少なくなる可能性があるということです。ADHDの専門家でない医師が、ADHDとは診断できないような子供たちをADHDであると診断してしまっているということでしょう。

また、以前からADHDと診断されている子供たちと異なり、新たにADHDと診断された子供たちのADHD症状は最も軽い部類のものであったということが分かりました。さらに、新たにADHDと診断された子供たちうち、行動面の障害が重症である者は少数しかおらず、ADHDであると診断される子供たちの数が増えるに従い、行動面の障害の程度が軽くなることも分かったのです。つまり、以前はADHDとは診断されなかった症状の程度が軽い子供たちをADHDであると過剰に診断している可能性があるということですね。

要約すると、以前はADHDとは診断されない症状の軽い子供たちが、非専門家により過剰にADHDであると診断されるようなことが増えている可能性があるということです。

私見:受診者の思い込みから生じる過剰診断

日本に限って言うなら、30~40年前にはお医者さんでもADHD(当時はADDと言われていました)という言葉を知らない人が多かったようです。しかし、ADHDをはじめとする発達障害というものが一般にも知れ渡り、ネットでその症状や特徴が簡単に検索できるようになってからは、ネット情報を見て「自分はこれに違いない」と思って病院を受診することが増えてきました。

「ADHD的であること=ADHDである」と確信してしまうのですね。ADHDと診断できるほどの症状がない人でも、ネットに書いてある症状を読んでしまうと自分にはこの症状があると思い込んでしまうのです。あるいは「そんなことも時にある→そんなことが頻繁にある」というように程度を過大評価してしまうこともよくあるものです。実際には「そんなことがしばしばある」という程度でないといけないのにです。あるいは今まで不注意というものが症状であるとは思いもよらなかったのに、それが症状として現れる病気があると知ることで、病院に行こうかと思うようになって受診する人自体が増えたということも影響しているかもしれません。

受診する側は自分はADHDであると思い込んで受診するものですから、先ほど述べたように、「そんなこともときにある」という程度であるのに、医師から「そんなことはしばしばありますか?」と問われると「はい」と答えてしまうのです。このように、受診者自身の思い込みが診療の場面で過剰診断を生み出すことが多いのではないかと私は思っています。

過剰診断、過剰治療は有害である!

ここで取り上げた論文によると、小児のADHDに薬物を投与するケースが増えていることが示されたといいます。そして、ADHD症状の重症度が高いほど薬物療法の有効度が高いこと、症状が軽いほど薬物療法から得られるメリットが小さいことも分かりました。さらに、治療による有害事象は、重症者に比べて軽症から中等症の子供たちにより関連があり、治療を中止する患者の割合も軽症から中等症の子供たちで高いことも分かったということです。

加えて、軽症の子供たちをADHDであると診断することにより、デメリットの方が目立つという報告が2つあり、ADHDと診断されることは、同程度の問題行動を示しても、ADHDと診断されなかった場合に比べ、子供たちの心と社会生活により害を与え、勉強の進展にもより悪い影響が生じるリスクが高まることが示されたといいます。

結論

以前はADHDと診断されなかった子供たちがADHDであると診断されるようになって来ており、総合的な観点からは軽症のADHDの子供たちがADHDと診断されて治療されることで、かえって良くない結果となる可能性のあることが示唆されたということですね。

しかし、これはあくまで18歳以下の子供たちについてです。大人の場合は少し事情が違ってくるでしょう。大人の場合は、大学や専門学校あるいは職場に自分がADHDであるとオープンにすることはほぼないようです。ですからもし、薬物療法を行って不注意症状などが多少なりとも改善されて学業や仕事に改善が得られるなら、メリットはあってもデメリットはないと言えるのではないかな?

ただし、一般の医療機関では処方出来ない神経刺激薬(医療用覚醒剤とも言える薬剤)の投与は少々考えものです。ADHDの方に神経刺激薬を投与しても依存を心配する必要性は低いという意見もありますが、ADHDの人は薬物依存になりやすいとの見解は広く認められている事実です。大人のADHDの特に軽症例には神経刺激薬は使うべきではないと私は思っています。

特記

ちなみに当院では神経刺激薬を処方する許可は得られておりません。

参考文献

Overdiagnosis of Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Children and Adolescents

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