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私見:社交不安障害の治療について

私見:社交不安障害の治療について

社交不安障害の治療は難しいものです。安定剤は効果が実感できるものの、社交不安障害自体を治癒させることはできませんし、治すのに有効とされている抗うつ薬の一種であるSSRIも有効性が実用レベルにあるか疑問です。ここでは社交不安障害がなぜ治りにくいかについて私見を書きたいと思います。

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画像の説明

社交不安障害の症状発現の構造

社交不安障害の認知を取り扱うのは難しいものです。うつの場合は、

  • 「出来事→脳の誤動作→認知の歪→気分低下」

というように模式化できるのですが、社交不安障害の場合は、

  • 「対人場面→ 脳の誤動作→緊張→認知が歪む→もっと緊張」

とでもいえる流れとなるため、認知を取り扱うことが難しいのです。

言い換えると、うつでは

  • 「悪く考えるから気分が落ち込む」

ということになるのですけど、社交不安障害では

  • 「緊張するから脅威的に考える」

というようになっているということでしょうか。しかし、「緊張するから脅威的に考える」ので「もっと緊張する」というように、思考が新たな緊張の悪循環を生み出します。認知行動療法では、この新たな緊張の悪循環を断ち切る試みをするのです。

ところがところがです。うつ状態とは違って、社交不安障害では脳が誤動作するから緊張という情緒反応が生じます。うつ状態の場合は、脳が誤動作して認知が歪むというように、情緒ではなく思考のミスリードが生じて、その後に落ち込むという情緒反応が生じるのです。

例えるなら、うつ状態に場合、「ちょっとしたすりむき傷」を、痛い痛いと言って「自分でさらに触る」ことでもっとすりむき「傷が酷く」なってしまうのです。痛いところは「触る」のではなく「触らないでおく」べきですね。「触らない」でおくべきところを「触るという判断」をしてしまうことが「認知の歪み」ということになります。そして、「触る」という行為が「悪い方に考えるという思考(認知)」であり、その結果、傷が酷くなってどんどん痛み(落ち込み)が強くなるのが「うつ状態」です。

社交不安障害の場合は、思考よりも強力な情緒(緊張)が脳の誤動作で発生します。これも傷に例えるなら「すりむき傷」のすりむき具合が「はじめから酷い」のです。思考よりも情緒の方がはるかに強力ですから傷はより酷いということになります。このひどい傷を「悪い方に考えるという思考(認知)」という自分の指で更に触るので、もっと傷が酷くなって「痛み(緊張)も酷くなる」のは「うつ状態」と同じです。

ですけど、社交不安障害の場合は、もともと最初に生じる傷(緊張という情緒反応)が深いので、思考(悪い方に考える)という自分の指で触らなくても痛みはおさまりません。うつ状態の場合は、傷が浅いので触らない(思考で悪い解釈をしない)ことで、痛み(落ち込み)は抑えられ傷も治っていくのです。

一方、社交不安障害に場合は、生じている傷が深いので触らない(思考で悪い解釈をしない)だけでは痛み(緊張)も軽くならないし、治ることも難しいのです。傷が深いので、傷を消毒して、傷の治りが良くなる軟膏を塗って、ガーゼで覆って傷の手当てをしなければなりません。

この消毒液や軟膏、ガーゼに相当するのが、お薬(SSRIが主)でありリラクゼーション訓練です。そして、触らないことが認知療法になります。さらに傷が治って来れば少しずつ治った部位に刺激を加えて行って皮膚を強くする訓練をするのが行動療法です。これらお薬以外のリラクゼーション訓練と認知療法および行動療法のセットが社交不安障害の認知行動療法になります。

認知行動療法を行える医療機関なし?

日本で先に書いた社交不安障害の認知行動療法をしっかりと行える医療機関は殆どないというのが現状ではないでしょうか?少なくとも九州でそれがしっかりと行える医療機関を私は知りません。知っている方はご連絡していただければありがたいです。ですから、九州ではお薬による治療が中心になってしまいます。

お薬の注意点

社交不安障害に効くお薬にはSSRIや安定剤などがあります。以下に簡単に紹介します。

SSRI

すり傷が酷いとき、傷を保護してかつ傷の治り自体を促進する軟膏などを傷に塗ります。社交不安障害の場合、この軟膏に相当するのがSSRIです。直ぐにはよくならないですけど、傷はやがて治っていくことになります。世界的にも日本でもSSRIが社交不安障害の第一選択薬です。

安定剤(抗不安薬)

麻酔薬に例えていいでしょうか。傷に麻酔薬を塗ることで痛みは消えます。痛いのが消えたからと言って刺激に傷を晒していると傷は治りません。永遠に麻酔薬を塗り続けることになるのです。ですから、社交不安障害に安定剤を使うべきではありません。しかし、痛み(緊張)に麻酔薬(安定剤)は著効します。その結果、麻酔薬(安定剤)をまた使いたくなるのです。これが安定剤への依存ということになります。

β遮断薬

動悸などの身体的緊張反応を和らげる作用があるので、ときに上記お薬に併用されることがあります。私はほとんど処方しませんけど。

社交不安障害の治療は難しい!

本格的な認知行動療法を行えれば別かも知れませんけど、社交不安障害をお薬で治すのは実は難しいのです。社交不安障害の治療薬であるSSRIの実用的効力感は恐らく10〜30%改善レベル、よく効いても60〜80%改善レベルくらいではないでしょうか?ご本人が満足できる程度までには効かない場合が多いというのが実情です。

その一方で、安定剤の効力感は多くの場合、70〜90%改善レベルまで得られるようです。さらに悪いことに、SSRIが効果が得られるまでに数週間かかるのに対し、安定剤は飲んでから30分〜1時間もすれば効果が実感できるという即効性があります。しかも、SSRIは毎日忘れずに服用しないといけないのに対し、安定剤は必要な時だけ服用すればいいという利便性があるのです。その結果、多くの人がSSRIではなく安定剤での対人緊張(社交不安障害)のコントロールをしているというのが当院での現状です。

根本的に治したい時には、どうしても認知行動療法を受けることが望ましいでしょう。日本では千葉大学医学部附属病院の認知行動療法センターが行なっているようです。一度、お電話などで住まいの近くで社交不安障害の認知行動療法を行なっている医師や心理士がいないかを、問い合わせてみると教えてもらえるかも知れません。保証はできませんけど m(_ _)m

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