本当に高齢者はコレステロールを下げなくていいか?
本当に高齢者はコレステロールを下げなくていいか?
PRESIDENT onlineに『がんや早死にのリスクを高めるだけ…和田秀樹が「女性は絶対に飲んではいけない」と話す危険な薬の名前 』
(https://president.jp/articles/-/91218?page=1)
という記事がありましたが、本当だろうか?と疑問に思ったので、ChatGPT(o3-mini high)に聞いてみました。
まず補遺
ブラジル・アマゾナス連邦大学のFernando Luiz Westphal Filho氏らは、スタチン(コレステロールを下げる薬)と認知症リスクとの関連を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施し、55件の研究、700万例超の観察研究をメタ解析に含めた結果、スタチンの使用は、非使用と比較し、「認知症リスクを14%低くする」という結果が得られたといいます。アルツハイマー病のリスクは18%、脳血管認知症のリスクは11%低くなるそうです。下記およびこの論文の結果からも、高齢者がコレステロールを下げる薬を飲む必要がないというのは、理にかなっていないと言えるのではないでしょうか?
ChatGPT(o3-mini high)へのプロンプト
プロンプトは「コレステロールの高い高齢者のコレステロールを、薬で正常化する必要はない。薬で高齢者のコレステロールを正常化すると、がんや早死にのリスクを高めるというのは本当ですか?Webの学術的サイトを深く検索してコメントして下さい。」とし、結果は以下の如くでした。
ChatGPT(o3-mini high)の回答
このような主張については、いくつかの見解や一部の著者(例:和田秀樹氏)の意見としてメディアで取り上げられることがありますが、現時点での高品質な科学的エビデンスや国際的な臨床ガイドラインの立場とは大きく異なります。以下、学術的な調査結果や評価を踏まえて解説します。
脂質低下薬(主にスタチン)の効果と安全性
•心血管疾患予防の実績
多数の無作為化比較試験(RCT)および大規模メタ解析により、スタチンは動脈硬化性疾患(心筋梗塞、脳卒中など)のリスク低減に寄与することが明確に示されています。これらの試験は男女・年齢を問わず実施され、適切な患者(たとえば心血管リスクが高い場合)に対しては、その利益が副作用リスクを上回るとされています。
•高齢者における治療の検討
高齢者は一般的に心血管疾患のリスクが高いため、個々のリスク評価に基づいて脂質低下療法を行うことは、国際的なガイドライン(例えば欧米のガイドライン)でも推奨されています。年齢が高いことを理由に一律に薬物治療を回避する考え方は採用されていません。
がんや早死にリスクとの関連について
•観察研究と逆因果の可能性
一部の観察研究では、低い血中コレステロール値とがんリスクや全死亡率の上昇との関連が報告されることがあります。しかし、これらの研究では「低コレステロールが原因でがんになる」というよりも、既に存在する(または進行中の)疾患(たとえば、がんや慢性肝疾患)が血中コレステロール値を低下させる「逆因果」の可能性や、他の交絡因子(栄養状態、既往疾患など)の影響が考慮されるべきです。
•ランダム化比較試験の知見
多くの無作為化比較試験およびそのメタ解析(例:Cholesterol Treatment Trialists’ Collaborationなど)では、スタチン治療ががんによる死亡率や全死亡率を増加させるという決定的な証拠は見つかっていません。むしろ、心血管イベントの予防効果が明確に示され、全体としての死亡率の低下が報告されています。
「高齢者のコレステロールを薬で正常化するとがんや早死にのリスクが上がる」という主張について
現時点の科学的根拠:現在の高品質なエビデンス(無作為化比較試験やメタ解析、国際的な臨床ガイドライン)からは、特に高齢者において、適応に基づいて脂質低下薬を使用することでがんリスクや早死にリスクが一律に増加するという決定的な証拠は得られていません。
個々のリスク評価が重要:薬物療法の必要性やその適用は、単に血中コレステロール値だけではなく、全体の心血管リスク(血圧、糖尿病、喫煙歴、家族歴など)や患者の全身状態、年齢、他の併存疾患などを総合的に評価して判断されるべきです。高齢者の場合、心血管疾患リスクが高いと判断されれば、スタチンなどの脂質低下療法による利益が大きいとされています。
結論
「高齢者の高いコレステロールを薬で正常化すると、がんや早死にのリスクが高まる」という主張は、一部の著者やメディアが取り上げる意見であり、現時点での信頼できる無作為化試験や国際的な臨床ガイドラインの立場とは一致していません。
多数のRCTやメタ解析では、スタチン治療が心血管疾患のリスク低減に寄与し、全体の死亡率を低下させる効果が示されています。
一部の観察研究で低いコレステロール値とがんリスクの関連が指摘される場合もありますが、これは既存の疾患や交絡因子の影響を受けた結果と考えられます。
したがって、高齢者においても、個々のリスク評価に基づき、適切な治療対象であれば脂質低下薬の使用は有益であり、一律に「薬で正常化することががんや早死にのリスクを高める」と断定する根拠は十分ではありません。
まとめ
現時点の学術的根拠および臨床ガイドラインでは、適切なリスク評価に基づいて高齢者に対して脂質低下薬(主にスタチン)を用いることが、心血管疾患予防の面で有益であるとされており、がんや早死にのリスクが一律に上がるという主張は支持されていません。治療の必要性や方法は、個々の患者の全体状況とリスク・ベネフィットのバランスを慎重に評価して決定されるべきです。
参考:Perplexityの回答
高齢者のコレステロール管理については、一概に薬での正常化が不要とは言えず、個々の状況に応じた慎重な判断が必要です。また、薬物療法が必ずしもがんや早死にのリスクを高めるという明確な科学的根拠はありません。
高齢者の脂質異常症治療の必要性
高齢者においても、総コレステロール、LDLコレステロール値が高くなれば、冠動脈疾患の発症リスクが増加することが示されています[3]。2002年のPROSPER試験では、70~82歳の心疾患リスクの高い患者にスタチンを投与することで、冠動脈疾患の予防効果があると報告されています[1]。
さらに、日本人を対象としたEWTOPIA75試験では、平均年齢80.6歳の高LDLコレステロール血症患者に対して、エゼチミブによる治療強化群が食事療法のみの群と比較して、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが34%減少したことが示されました[1]。
高齢者の脂質管理における注意点
一方で、高齢者の脂質管理には以下の点に注意が必要です。
- 個別化された治療:高齢者は複数の疾患を抱えていることが多く、薬物相互作用のリスクが高まります[2]。
- 副作用のリスク:高齢者はスタチンなどの薬剤による副作用のリスクが若年者より高い可能性があります[2]。
- 栄養状態への配慮:高齢者では、コレステロールを含む食品の過度な制限が低栄養につながる可能性があります[1]。
- 年齢による差異:85歳以上の超高齢者では、新たに脂質異常症の治療薬を処方する必要性が低い可能性があります[1]。
がんや早死にのリスクとの関連
高齢者のコレステロール値と死亡リスクの関係については、一部の研究でコレステロール値が最も低い高齢者群で死亡リスクが高かったという報告があります[2]。しかし、これは必ずしも薬物療法ががんや早死にのリスクを高めることを意味するものではありません。
結論
高齢者の脂質異常症治療は、個々の患者の状態、既往歴、リスク因子を考慮して慎重に判断する必要があります。薬物療法が必要な場合もあれば、食事療法と運動療法のみで十分な場合もあります[3]。また、高齢者では栄養状態の維持も重要であり、過度な食事制限は避けるべきです[1]。
高齢者の脂質管理については、最新のガイドラインや研究結果を踏まえつつ、個別化された適切な治療方針を選択することが重要です。
情報源
[1] 年を取ったら脂質異常症(高コレステロール血症)の治療はやめて ... https://nakano-dm.clinic/blog/post-106/
[2] 75歳以上の高齢者に対する脂質異常症治療薬-必要である場合と https://medicalnote.jp/diseases/%E8%84%82%E8%B3%AA%E7%95%B0%E5%B8%B8%E7%97%87/contents/160511-003-GS
[3] 「高齢者脂質異常症診療ガイドライン 2017」を踏まえた ... - J-Stage https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/56/4/56_56.417/_pdf
[4] 抗コレステロール薬の長期服用とがん罹患リスクとの関連について https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/9460.html
[5] コレステロールの薬は高齢者に有効か? - すぎおかクリニック https://sugioka-clinic.jp/blog/%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E8%96%AC%E3%81%AF%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85%E3%81%AB%E6%9C%89%E5%8A%B9%E3%81%8B%EF%BC%9F/
[6] .高齢者の薬物療法の問題点 ―代謝内分泌領域疾患 - J-Stage https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/39/1/39_1_6/_pdf
[7] [PDF] 4.脂質異常症 - かかりつけ医のための 適正処方の手引き https://www.med.or.jp/dl-med/chiiki/tebiki/R0201_shohou_tebiki4.pdf
[8] コレステロールの薬の副作用、血液検査の必要性について https://amanuma-naika.jp/blog/%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E8%96%AC%E3%81%AE%E5%89%AF%E4%BD%9C%E7%94%A8%E3%80%81%E8%A1%80%E6%B6%B2%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%AE%E5%BF%85%E8%A6%81%E6%80%A7
[9] 第4章 認知症の予防 2.生活習慣病(3)脂質異常症 https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/ninchisho-yobo-care/h30-4-2-3.html
[10] 高齢者における脂質異常症管理 | 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koreiki-seikatsushukambyo-kanri/koureisya-shishitsuijyoukanri.html
[11] スタチンはがん死亡リスクを下げるか~日本のコホート研究 https://www.carenet.com/news/general/carenet/43470
[12] 3.高齢者脂質異常症の管理 - J-Stage https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/51/3/51_214/_pdf
[13] 動脈硬化性疾患予防ガイドライン・エッセンス - 日本心臓財団 https://www.jhf.or.jp/pro/a&s_info/guideline/post_2.html
[14] 脂質異常症の薬とは?コレステロールを下げる薬を飲むべきか解説! https://www.mizenclinic.jp/blog/dyslipidemia-1/
[15] 日本人高齢者における高コレステロール血症治療薬と認知症との関係 https://obata-naika.jp/blog/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%AB%98%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E8%A1%80%E7%97%87%E6%B2%BB%E7%99%82
[16] [PDF] 成人家族性高コレステロール血症診療ガイドライン 2022 https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/JAS_FH_GL2022.pdf
[17] [PDF] 「高齢者脂質異常症 診療ガイドライン 2017」 - 日本老年医学会 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/pdf/guideline2017_03.pdf
[18] スタチン系薬剤の効果と副作用 脂質異常症治療で高齢者が注意す ... https://www.minnanokaigo.com/news/kaigo-text/pharmacist/no92/
[19] [PDF] 脂質異常症治療 のエッセンス - 日本医師会 https://www.med.or.jp/dl-med/jma/region/dyslipi/ess_dyslipi2014.pdf
[20] 脂質異常症治療薬(高脂血症のお薬) - 名古屋徳洲会総合病院 https://www.nagoya.tokushukai.or.jp/wp/heart_cardiopathy/3376.html
[21] コレステロールの薬の副作用、血液検査の必要性について https://amanuma-naika.jp/blog/%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E8%96%AC%E3%81%AE%E5%89%AF%E4%BD%9C%E7%94%A8%E3%80%81%E8%A1%80%E6%B6%B2%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%AE%E5%BF%85%E8%A6%81%E6%80%A7
[22] 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 https://www.j-athero.org/jp/jas_gl2022/
[23] 脂質異常症診療のQ&A - 日本動脈硬化学会 https://www.j-athero.org/jp/publications/si_qanda/
[24] 高齢女性が注意したい脂質異常症。治療に用いる薬の副作用と注意点 https://www.minnanokaigo.com/news/kaigo-text/pharmacist/no76/
[25] がんや早死にのリスクを高めるだけ…和田秀樹が「女性は絶対に飲ん ... https://president.jp/articles/-/91218?page=3
[26] 乳がん死亡率とスタチン使用、コレステロール値の関係 - ケアネット https://www.carenet.com/news/general/carenet/57565
[27] 脂質異常症の治療薬(スタチン系薬)の危険性について(facebook ... https://matsumotoclinic.com/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%B3%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BC%88facebook%E3%82%88%E3%82%8A%E8%BB%A2%E8%BC%89-2019-11-5%EF%BC%89/
[28] コレスロール論争 - くにちか内科クリニック https://kunichika-naika.com/information/hitori201412
[29] がんや早死にのリスクを高めるだけ…和田秀樹が「女性は絶対に飲ん ... https://president.jp/articles/-/91218?page=1
[30] 総コレステロール値とがん発生リスクとの関連 | 多目的コホート研究 https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/357.html
[31] 【一覧表】脂質異常症(高脂血症)の治療薬の必要性や副作用を解説 https://eki-kuri.com/column/dyslipidemia-therapeutic-drug/
[32] がんや早死にのリスクを高めるだけ…和田秀樹が「女性は絶対に飲ん ... https://president.jp/articles/-/83619?page=1
[33] 脂質異常症の治療薬で横紋筋融解症の副作用があるようですが https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c2/hint003.html
[34] スタチンに肝臓がん予防効果 | メディア掲載 - むねとおなか 伊藤醫院 https://munetonaka.com/media-release/media-release-2096/
[35] 高齢者における脂質異常症管理 | 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/koreiki-seikatsushukambyo-kanri/koureisya-shishitsuijyoukanri.html
補遺の論文
Statin use and dementia risk: A systematic review and updated meta-analysis.
- Journal
- Alzheimer's & dementia (New York, N. Y.). 2025 Jan-Mar;11(1);e70039. pii: e70039.
- Author
- Fernando Luiz Westphal Filho, Paulo Roberto Moss Lopes, Artur Menegaz de Almeida, Vitor Kendi Tsuchiya Sano, Fernanda Moraes Tamashiro, Ocílio Ribeiro Gonçalves, Francisco Cezar Aquino de Moraes, Michele Kreuz, Francinny Alves Kelly, Pablo Vinícius Silveira Feitoza