抗うつ薬でも認知症リスクが増える?
抗うつ薬でも認知症リスクが増える?
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、脳内のセロトニン量を増やし、気分ややる気を改善する抗うつ薬であり、副作用が少なく、高齢者にも比較的安全とされ、うつ病治療の第一選択薬として広く使用されており、高齢者への抗うつ薬処方の半数以上がSSRIであると言われています。
スウェーデンで2007年から2018年に新たに認知症と診断された約18,740人を対象に、抗うつ薬の処方と認知機能の変化を追跡し、認知症患者におけるSSRIの使用が、知能低下を加速させる可能性を調査しました。カロリンスカ研究所(スウェーデン)神経学分野のSara Garcia-Ptacek氏らの研究です。
研究結果
抗うつ薬全体を使用している患者群では、非使用群に比べて年間でMMSEスコア(認知機能テスト:最低点0点〜最高点30点:23点以下が認知症の疑いあり)が平均0.30ポイント余分に低下していました。
特に処方の多かったシタロプラム(SSRI)、ミルタザピン(その他)、セルトラリン(SSRI)、エスシタロプラム(SSRI)、アミトリプチリン(TCA)、ベンラファキシン(SNRI)について検討した。(SSRI、SNRI、TCA、その他などは抗うつ薬の分類)について調査したところ、特に以下の4種類のSSRIで、認知機能低下が認められました。
- セルトラリン(ジェイゾロフト):年間−0.25ポイント
- シタロプラム(日本未発売):年間−0.41ポイント
- エスシタロプラム(レクサプロ):年間−0.76ポイント
- ミルタザピン(リフレックス):年間−0.19ポイント
また、高用量SSRIの使用者では以下のリスクが上昇したようです。
- 重度認知症への進行リスク: 最大35%増加
- 全死亡リスク: 18%増加
- 骨折リスク: 25%増加
研究の意義
この研究の意義は、SSRIが認知症患者の知能低下を加速させる可能性を示唆し、これまでの「安全性」の認識に警鐘を鳴らし、認知症患者における抗うつ薬の使用を慎重にモニタリングする必要性を強調していることです。
この研究の注意点
本研究は相関研究であり、因果関係を証明したわけではないということ、重症の認知症患者では行動・心理症状が顕著なため、SSRIが選択されやすいというバイアスが考えられること、そして、調査対象が一部のSSRIに限られ、他のSSRI全体に同様のリスクが当てはまるとは限らないという点でしょう。
その他の抗うつ薬
もう一つの主要な抗うつ薬クラスであるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)については、認知機能低下との明確な関連は確認されなかったとのことでした。
独言
安定剤(抗不安薬)や睡眠薬の使用で認知症になるリスクが高まるとの報告はありましたが、抗うつ薬の代表であるSSRIで認知機能の低下が誘発されるリスクがあるというのは驚きです。SNRIではそのリスクが認められなかったということですから、高齢者にはSNRIを使うのが無難なのでしょうかね。しかし、鎮静作用が著しく強いアミトリプチリンが認知機能低下をきたさなかったと言うのは意外と言う他ありません!驚きです。