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最新医学の情報乱れ読み/2012-03-12

Tag: 記憶 遺伝子

長期記憶形成の分子機構1

  • 長期記憶形成時におけるサル側頭葉での遺伝子発現  

認知記憶を形成し長期間保持するには、海馬や周嗅皮質などの側頭葉内側部辺縁系が必要であることが示されてる。

この際、これらの領野において神経回路の再編成が起こることが認知的長期記憶の本質であるとの仮説が提唱されている。

脳由来神経栄養因子(BDNF)は、その発現が活動依存的に変化することが知られている。

BDNFを神経細胞に強制発現させると、細胞の形態変化を引き起こしたり大脳の発達に影響を与えたりすることが報告されている。

霊長類の認知的長期記憶の形成時には側頭葉の特定領域において神経回路網の再編成を引き起こすための遺伝子の活性化がおこるという作業仮説をたて、認知的長期記憶課題を行わせたニホンザルの大脳側頭葉におけるBDNFの発現を解析した。

大脳半球離断手術をおこなったサルを用いて、同一個体に実験用課題と対照課題の二つの課題を同時に行わせ、同じ個体内で2つの条件を比較する方法(動物個体内比較)を施行。

実験用課題である視覚性対連合課題は図形と図形の連合の長期記憶が必要とされる課題であり、サルは試行錯誤を繰り返しながら予め無作為に対になっている図形ペアを覚えることが要求さる。

対照課題である図形弁別課題では、図形と図形の連合記憶は必要とされない。

サルにはまず練習用の図形セットを用いて、この2つの課題のルールを学習させ、その後、新規の図形セットに切り替えて新しい図形の記憶を形成させた。

図形セットを切り替えた直後では、サルはほとんど偶然でしか正解できまいが、トレーニングを続けるうちに正答率は次第に上がっていく。

このような学習途上段階において、左右半球別に一次視覚野や側頭葉連合皮質TE野、周嗅皮質36野、海馬等の大脳領野よりRNAを調製しBDNF mRNAの発現レベルを決定した。

大脳半球離断サルを用いた動物個体内比較 視点をモニター画面の中央に固定することにより、モニター左半分(左視野)の視覚情報は大脳右半球に、右半分(右視野)の情報は左半球に入力される。

大脳半球間の繊維連絡を断っているため、2つの課題はそれぞれの半球で独立に処理される。

片側の半球に実験用課題として視覚性対連合課題(PA task)を、反対側の半球に対照課題として図形弁別課題(VD task)をおこなわせ、両半球でのBDNF mRNAの発現レベルを比較した。  

その結果、周嗅皮質36野における対連合学習半球のBDNF mRNA発現レベルは、図形弁別学習半球に比べ有意に高いということを発見。

その他の視覚および視覚関連領域では対連合学習中と図形弁別学習中におけるBDNF mRNAの発現レベルに差は見られなかった。

In situ hybridization法にてBDNFの分布を調べ、周嗅皮質36野においてBDNF mRNAが局所的に集積している場所があることがわかった。

一方、図形弁別学習半球にはこのようなBDNF mRNAの集積は見られなかった。

後頭葉から側頭葉へ至る様々な大脳領野におけるBDNF mRNAの発現レベルを定量的RT-PCR法により測定し、実験用課題(PA課題)側の大脳半球における発現レベルと対照課題(VD課題)側の半球における発現レベルの比(PA/VD)を求めた。

周嗅皮質36野では、BDNF mRNAの発現レベルは対連合課題側において有意に高かった。

さらに、他の遺伝子の発現変化に関しても解析を行ったところ、zif268と呼ばれる遺伝子も対連合学習特異的な発現の上昇を示した。

また、免疫組織化学によってタンパクの分布を調べたところ、対連合学習時に周嗅皮質36野においてzif268タンパクが局所的に集積していることもわかった。

霊長類の嗅周皮質は、解剖学的にみると海馬などの内側側頭葉辺縁系と新皮質連合野を結ぶ中継領野であることが知られているが、最近の電気生理学および行動学の結果から、この領域は単に中継領野としての機能以上に認知記憶の形成・保持に重要な役割を果たすことが示されている。

以上の結果から、周嗅皮質36野におけるBDNFやzif268等の遺伝子発現の変化が認知記憶形成にともなう神経回路の再構築の基礎過程なのではないかと考察。

奥野浩行:東京大学医学部統合生理

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