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心の病気解説

次のような解説があります


心の病気概略     福岡大学名誉教授 西園昌久

 心の病気にはたくさんの種類がありますが、以下に代表的な心の病気の症状について述べます。

不眠(睡眠障害)

不眠にもいろんな型があります。

「寝つきが悪い」のは不安と関係していて大抵神経症です。

心配のしすぎで神経質になっておられるためです。

睡眠導入剤が処方されますが、なるべくのまなくてすむように耐えてみる心も必要です。

寝つきが悪くても朝起きる時間は決めて実行するというやり方が寝つきをよくするのにつながります。

急性の激しいストレスや悩みのときは大抵一過性ですが、「寝つきが悪い」だけでなく、「いつも目が覚める」「ほとんど眠れない」ことも起こります。

こうしたときは睡眠導入剤を使ってぐっすり眠れるようにいたします。大抵一過性ですから、薬を使っても習慣性にならないでやめることができます。

「夜中よく目が覚める」「明け方早く目が覚める」場合はうつ病とかアルコール依存が考えられます。

うつ病の場合はもともとの病気の治療をすれば睡眠障害は比較的早くよくなります。

アルコール依存の場合は、アルコールで麻痺していた脳がアルコールが切れてかえって興奮して目が覚めるのです。

「アルコールで3分早く寝つけるが、30分早く目が覚める」といわれますが、アルコールをやめるか減らすかが必要です。

脳動脈硬化症の場合も朝早く目が覚めることがあります。

睡眠時間が極端に短くなって4~5時間で起きる方がありますが、これはほとんど躁病の場合です。その治療をせねばなりません。

昼夜逆転の生活になっている人は無気力青年といわれる人格障害の上に起きた不適応反応の場合もありますが、精神分裂病のときにもあらわれることがあります。
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不安

 急性に不安発作が起こり、死の恐怖や発狂恐怖が生じることがあります。

大抵、心悸亢進、頻脈、呼吸困難、冷汗などもともないます。

不安発作が頻発するとそのような苦痛がおこることをおそれる予期不安のため外出ができなくなることがあります。

このごろではパニック障害といわれています。

それほどひどくなくても、常時不安でいろんなことが気になり自信をなくす慢性不安のこともあります。

こうした不安症状は大抵抗不安剤で軽くなります。

パニック障害にはある種の抗うつ剤がよく効きます。

しかし、多くは精神的葛藤が原因にある神経症ですから、薬だけでなく精神療法が必要です。

本人はそれほど不安を意識していないのに、不眠、疲れ、全身のけだるさ、肩こり、背中の痛み、下痢、集中力困難、気力のなさなどを訴える方があります。

これはいわゆるストレス症状です。

長期間にわたるストレスのためのもので、やはり不安が体に現れた症状です。

薬も効果はありますが、それより休養と生活の点検、それに積極的に生活する心を取り戻して、体を動かすこと、スポーツをすることが必要になります。

さらに、体のいろいろな部位の故障感、あるいはいわゆる不定愁訴も不安のあらわれです。

体の症状といえば、神経系統には医学的に異常はないのに、目が見えない、立てない、歩けない、喋れない、全身けいれん、感覚麻痺といった症状があらわれることがあります。

転換ヒステリーといわれるものです。不安を体の症状に置きかえたと理解されています。

この転換ヒステリーと非常に近い関係にあってよく両者が一緒にあらわれてくるものに解離ヒステリーといわれるものがあります。

圧倒的に困った状況にさらされて解決の方法がすぐには見つからないときに、自分の名前や住所までわからなくなったり、そうした自分を忘れたままで遠くへ行ってしまったり、ある期間の記憶がなくなるといった病気です。

最近では、同じ人があるきっかけで別の人のような意識と振る舞いをする多重人格があらわれたことが報告されています。

こうした症状のときは薬は効きません。実際に困っていることと心の内側の不安を解決するために精神療法が必要です。

 不安には恐怖症や強迫神経症もあります。両者はよく似ていますが、前者は外出恐怖症や動物恐怖症に特徴的なように、不安に圧倒されてその場面に出ていけません。

強迫神経症は、不潔恐怖のための手洗強迫、確認強迫、ある数を頭の中に思い浮かべる算用強迫などのように、自分ではわかっているのにやめられないという特徴があります。

この両者には最近症状をやわらげる薬が開発されてきていますが、根本的には回避したりこだわったりする人格を精神療法でよくすることが必要です。
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抑うつ

抑うつ症状で悩まれる患者さんは非常に増えています。

昔は中年以降でしかも同じ家系内から発病することが多いというのが特徴的でしたが、今は若い人、中には小学生、中学生にでも起き、しかも環境と上手く適応できないという心理的原因で生じているというのが殆どといわれています。

症状も多彩で、身体の症状と精神症状が混在します。

1)寝つきは良いのに朝早く目が覚める

2)食欲がなくて急に3kgも4kgも痩せた―これは内分泌系統の障害のために起こったものです

3)胸苦しい

4)インポテンス・月経不順

5)体がだるい、ことに朝が悪い

6)憂うつ・不安

7)望みがもてない

8)おっくうで人に会いたくない

9)決断ができない

10)昔のことを思い出して自分を責める、人に申し訳ない、人に非難されている

11)死を考える
 
うつ病にかかる人は、よくいわれるように性格の特徴があります。

几帳面で融通のきかぬ性格であったり、絶えず身内の人の支持を求めつづける傾向の強い人です。

こうした性格の人は、子どもの時両親のどちらかを失ったとか、別れて過ごしていたとか、苦労があったとか、現在の状況に安んじておれない体験をしていることが多い特徴があります。

発病もそうした性格を支えきれない状況で生じていることが多くみられます。

うつ病の治療には、休養と抗うつ剤の服用、そして家族のあたたかい支援が必要です。

症状が重いとき、すなわち、不安や焦燥が強く自殺の心配もあるとき、面接でも落ちこみがひどくて会話にならないときや家族が留守をされて患者さん一人で家におらねばならないときは入院していただいたがよいでしょう。

うつ病の3/4の人は外来治療で数ヶ月もすれば治ります。

しかし、症状がとれた後も少量の薬は半年あるいは1年服用された方がよいでしょう。

1/4の方は慢性に移行することがあります。

アルコールがやめられず肝臓が悪かったり、会社の勤務に誇りを失ったり、ご夫婦の長年の対人関係にいびつさがあったり、あるいは高齢になって衰えに敏感になったり、身内の方をなくす不幸を体験されたりした後など、いろいろの原因が考えられますので、よくそれを見極めて治療することが必要です。

抑うつ症状は体の病気や他科の薬の副作用でも起きることがあります。すなわち、かぜ、高熱後、肝炎、脳卒中後、ときに癌のとき。薬との関係ではステロイド剤、避妊剤、降圧剤などです。
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対人関係の障害

多くは、引きこもって学校や会社に行けなかったり、友だちを避けたりします。

精神分裂病の自閉やうつ病の落ちこみのため以外に、登校拒否や無気力青年などにみられるような自分が傷つくことをおそれて負担になることから回避している場合があります。

最近では、若い人を中心に、情緒不安定で気にいらぬとことに家族に対して不機嫌、暴力をふるう人格障害が増えています。

些細なことにも傷つきやすく、まわりの人からの拒絶や無視に非常に敏感になっているのです。

逆に、陽気で自信に満ちあふれて、しばしば無遠慮に振る舞う躁病もあります。治療はそれぞれの病気を正しく診断して、それに合った治療が選ばれます。
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幻覚・妄想

若い人で幻覚・妄想が認められたら精神分裂病が心配になります。

「周囲が何か変」「監視されている・つけられている」「噂する声が聞こえる」「頭の中にテレパシーがかかる」「テレビが自分のことを放送している」などです。

殆どの場合、そんなことがないと家族が否定されても聴き入れてくれません。ますます被害感を強めて、誤った判断に固まります。

幻覚や妄想を直接訂正しようとすると効果がないばかりかかえって誤った考えを一層信じこみ、家族に不信感さえ生じますので、幻覚や妄想はただ聞いておくにとどめ、むしろ、体調や日常生活を話題にして受診をすすめられるがよいと思います。

精神分裂病の場合は幻覚・妄想ばかりでなく、自閉、興奮、日常生活の乱れ、無関心などの症状もあらわれることが殆どです。そうした幻覚・妄想以外の症状がないときには、診断は難しくなります。

中年にみられる妄想反応との区別が大事になります。

老人に、「財産を盗られる」「命を奪われる」「夜中に人が来ている」などといった妄想がみられることがありますが、脳の老化のため判断力が停滞して老人特有の心細い気持ちをそのように表現しておられるのでしょう。

こうした幻覚・妄想は原因となった病気が何であれ、ある種の薬がよく効きます。

もっとも、慢性分裂病の妄想で頑固なのがあってなかなか治らないのもままあります。

その場合には、薬で軽くするのを工夫するとともに、面接や生活指導で信頼関係を作って、妄想に動かされて行動しないよう支援してあげる必要のある場合があります。

精神分裂病の治療は、本人にもご家族にとっても、また担当する医療関係者にとっても根気のいるものです。

でも、今日では精神分裂病と診断された方の半分以上は外来だけで治療できます。幻覚や妄想が激しくそれに支配された言動があるとか、興奮しやすいとか、日常生活がひどく障害されているとか、薬をのまれないとか、ご家族に介護する方がいないという場合に入院していただきます。

95%の人は3~6ヶ月で退院できます。そのころには幻覚や妄想、あるいは興奮などはよくなっているはずです。

問題は、日常生活にハリがなくなってきびきびしないという無意欲状態が生じているときです。

同時に、幻覚・妄想まではないが社会をおそれる被害感が残っていることがあります。

したがって気長に、自信を取り戻すためデイケアあるいは外来に通院してアフターケアをしていただくことになります。
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意識障害や痴呆

意識障害にはいろんな種類がありますが、ふつう精神科で問題になるのはせん妄です。

軽い意識障害があって、注意の集中力が障害され、正しく事態を把握することができず、しかもその動揺がみられ、幻覚・幻聴・妄想などがみられることがあるのです。

せん妄は脳の障害を原因としてあらわれるもので、老人の場合、手術後、薬の副作用、あるいはアルコールの離脱症状としてあらわれます。

痴呆は、脳の病気のために脳細胞が侵され、そのため記憶、計算力といった知的能力の低下だけでなく、日常生活を円滑に営むこと、さらにはまわりの人との交渉能力、将来を見通す能力も障害されるのです。

痴呆をおこす病気として脳動脈硬化症とかアルツハイマー病が有名ですが、脳外傷や薬物の作用でも起きるのです。

せん妄と痴呆とは軽度のとき区別することが難しい場合があります。

治療としては、せん妄や痴呆を起こす原因となっているもとの病気を正しく判断し、その治療をすることが第一になります。

また、しばしば脱水や栄養障害がありますのでその補給をして全身の状態の改善に努めます。
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病識を欠くこと-病気であることを認められないこと

精神科の病気がふつうの体の病気とちがうことは、病気を患った方が自分の病気を認めようとしないばかりか、治療を勧めても拒否することがあることです。

病識がないといわれるものです。その態度はいろいろのちがいがありますが、病気のため判断がまちがっていることと、病気と診断されることをおそれ拒否することとが重なっていることがふつうです。

はじめ精神科受診を拒んでいた方も家族の根気よい支えと説得とで態度をやわらげて受診してこられるのは、病識を欠くということも人間関係次第で変化することを示しています。

精神科のすべての患者さんが病識がないというわけではありません。

神経症やふつうのうつ病では自分の病気の自覚があるのがふつうです。

精神病とされる人たち、すなわち幻覚や妄想など重い精神症状があるとき、ふつうの対人関係ができない場合、日常生活が著しく損なわれているときなどに病識をなくされていることが多いのです。

そんな場合でも治療で精神病症状がなくなれば病気の自覚も出てきます。
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心の病気の養生法    福岡大学名誉教授 西園昌久

 精神科の病気は、素質、性格、それに思いがけない体験が重なりあってストレスとなり過剰な刺激が脳神経系の働きを損なって生じていることが殆どです。したがって、休養、薬、看護、作業療法、SST、社会復帰プログラム、家族の協力などいろんな角度からの治療が組み立てられます。

 しかし追跡調査をしてみると、大半の方はよくなっておられるが、中には慢性化して長期にわたり苦痛をもつ方もおられます。例えば、神経症できちんと治療を受けた方の2/3から3/4の方は治られ、数年後の追跡調査では80~90%が元気だと返事されています。神経症の患者さんは一旦治療を受けると治療を終了したのちも治り続けるわけです。ところが、治療のはじめの段階で気が変わって治療をやめてしまう人が多いのも神経症の特徴です。このような人を追跡調査してみると、転々といろんな医者-その多くは精神科以外の医者ですが-を訪ね、あまりよくなっていないのです。しかも、体の病気が新たに起きてくる人もあります。それは最近、不安が長期間続くと免疫力を損なって体の病気が起きるといわれているのに相当します。やはり、病気はきちんと早く治すべきなのです。うつ病は一旦治療関係ができると、中断することなく治療を続けられる傾向があります。前にも述べたように、3/4は1年以内に治られますが、1/4はもっと長く治療せねばならないことになります。精神分裂病については前に述べた通りです。

 精神科の治療の目標には、症状をなくすこと、家庭生活や社会生活への適応性を回復すること、自分の性格についての自己理解が深まって自律性を成長させることの3つがあります。治療を通じて患者さんは、自分の病気の性質を知り、再発を防ぐための手立てを身につけ、さらによい状態になることを覚えていただくことになります。つまり、患者さんの養生する心を育てることが治療でもあるのです。そのために必要なことは-

①病気の性質をよく知って、精神科医と相談してアフターケアに努めること。
 以下に述べる養生についての項目で病気と関係があるかどうかを知ることも大切です。また、薬をのむことが必要ならば、よく説明を聞いて納得した上で約束を守って下さい。

②規則的生活とライフスタイルを改善すること。
 睡眠、起床などの時間を守って十分睡眠をとって下さい。過労を慎むのは大切です。酒ののみすぎ過食も体のためによくありません。人間の体にある植物神経の調和を保って疲れを残さないようにして下さい。疲れたらそれを持ちこさず休養することです。生活の自律性は心の健康の基礎でもあります。

③適当な運動をして体力をつけること。
 はじめは一人でできる散歩、ジョギングなどからはじめ、2人でするキャッチボール、卓球、やがて集団でするバレーボール、ソフトボールなどへと広げていくのがよいといわれます。喜び楽しむ能力を回復することは心の健康の上でもたいへん大切です。

④目標をもった生活をして、気力を取り戻すこと。
 消極的でなりゆきまかせの生活ではつい1日中ぶらぶらすることになりかねません。簡単なことでもよいですから、計画性をもつ行動をして下さい。はじめのうち一人でできなければ、ご家族と一緒にやられるのもよいでしょう。掃除、洗濯、あるいは買物の手伝いなどもあるはずです。小さな成功、それも目標が達成されるのは気力を取り戻すのに効果があります。

⑤愛情ある生活を取り戻そう。
 精神分析をはじめたフロイトは、精神の健康の指標は、1)愛する能力、2)働く能力であると言いました。イギリスのウィニコットは、1)一人でいられる能力、2)思いやりの能力と申しています。愛情とか思いやりというのは精神の健康の上でたいへん大切なのです。自分が生きている証でもありますし、自分と人とをつなぐ確かなものでもあるからです。人と思いやりや愛情をもつためには、まず会話するとき相手の目をみつめて話すことがよいといわれています。これは家族の間でも実行してみて下さい。朝の挨拶をすることからはじめてもよいでしょう。中には両親への不満やいかり、憎しみを述べられる方がありますが、大抵はその方自身の性格上の傷つきに根ざしています。治療で自信を取り戻されると両親や友だちに対する愛情も回復していきます。
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うつ病    福岡大学病院精神神経科元外来医長 米澤利幸

うつ病について

 うつ病という用語の示すものは、症状的にはかなりの類似性でまとめられるものの、その病気の原因という観点からは非常に広範囲に及び、

脳の動脈硬化や脳卒中などの脳の病気に起因するもの(器質性うつ病)、

脳以外の身体の病気に起因するもの(症候性うつ病)、

血圧のお薬などの薬物に起因するもの(薬剤誘発性うつ病)、

未だ原因は解明されていないが何らかの生物学的原因が想定されているもの(内因性うつ病)、

原因となる出来事が明白なうつ病(反応性うつ病と心因性うつ病)、

抑圧された未解決の幼児期の葛藤に原因が求められるもの(神経症性うつ病あるいは抑うつ神経症)などが含まれます。

これらのうつ病(群?)は、このように文字に表してみると非常に明確に区別されているように思えますが、実際の臨床場面でその区別を行うことはかなりな困難を伴うというのが現実です。

うつ病と同様に、神経症も、その病因が種々に提唱されていますが、主な症状の違いからさらに細かい分け方がなされています。

その一部が、不安や身体的訴えへの拘りの強い状態を主症状とする不安神経症や心気神経症です。

ところが、不安や心気症状が非常に顕著となるうつ病も存在し、うつ病や神経症の診断には十分な注意を要します。

神経症との鑑別で特に困難を要するものがうつ病と抑うつ神経症の鑑別です。

両者ともに抑うつ症状を示し、特にうつ病の軽症例と抑うつ神経症との鑑別は極めて困難です。

また、遷延化したうつ病は神経症化といって神経症と区別できなくなることも多いようで、益々鑑別が困難となります。

このような実際上の鑑別の困難も一因なのでしょう、WHO(世界保健機関)によるICD-10という最新の分類基準では、'うつ病'と'抑うつ神経症の一部'は '気分障害'というグループに入れられています。

発病の原因をあまり考慮にいれず、実際に観察され訴えられる症状の程度のみから診断するようになっています。
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うつ病の症状とは?

 ICD-10によれば、うつ病の症状として、典型的な3つの症状と、他の一般的症状7つが挙げられています。

典型的な3つの症状とは、
①抑うつ気分(憂鬱・落ち込み・気が晴れない等)、
②興味と喜びの喪失(普通は楽しいと感じる活動に喜びや興味を失う等)、
③易疲労性(身体がだるくてきつくて億劫・ほんの少し活動しただけで酷く疲労を感じる等)であり、

他の7つの一般的症状とは、
①集中力や注意力がなくなる、
②自己評価が低下し自信がなくなる、
③自分が価値のない人間のように感じられたり過剰な罪責感を感じ悔やみだす、
④将来に希望を感じられなくなり全てを悲観的に考える、
⑤自殺を考えたり手首を切ったりして自分を傷つける、
⑥眠れなくなるなどの睡眠障害、
⑦食欲がなくなるなどです。

これらの症状が多いほど重症ということになります。

ところで、先にも少し触れたように、うつ病にもその症状に多少のバリエーションが認められます。

上記のうつ病の基本となるような症状群を基盤としながらも、
①不安や焦燥が強いもの、
②焦燥が極度に強いもの、
③身体的訴えや身体症状への拘りが強いもの、
④思考の停滞や活動性が極めて抑制されるもの、
⑤妄想を伴うもの、
などのバリエーションが認められます。
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うつ病発病の心理機制

 うつ病の診断と治療に際してまず重要となるのが、うつ病発症の心理的機制の理解です。

一般的に重視されるのは、喪失体験の関与についてです。

喪失には、
①文字通り愛する人・本人にとって重要な人との死別あるいは別離
②そのような人からの拒絶や期待に応えられなかったりというような内的喪失
③本人の精神的・身体的機能の喪失による自己評価の傷つき
④昇進・結婚など一般的には陽性の体験と見なされることがかえって内的保証を失ってしまうこと
などがあります。

特に、なかなか治りにくい患者さんの場合、直接的な発病の誘因とはなっていなくとも思春期以前の重要な他者に関連した喪失体験が心理的に重要な要因となっていることが多いようです。

幼少期の両親、ことに母親との死別・生別・情緒的喪失(愛情剥奪)は子供の心身の正常な発達を妨げ、救いのなさや安全の源泉の弱体化からの傷つきやすさを作り出してしまいます。

このような傷つきやすさは、その後の対象喪失への過敏さというパーソナリティー上の特徴を形成する原因となります。

対象喪失に敏感でそれが苦痛なあまり喪失体験が否認されてしまうために、うつ病発病時に喪失体験の関与が目立たず、かえって、その後に生じた些細なストレスで発病するのです。

また、うつ病者は、心を開いて自らを語ることが少なく、抑うつが深いとき、他者との現実的な情緒的関係を絶つことで自閉的となり、さらに対象喪失が繰り返されることを防ぐ傾向があるようです。

 このように、うつ病者には、対象喪失に過敏なパーソナリティーが形成されているため、こうした過敏性を保証しようとして、一定の対人関係パターン共通性が認められます。

それは、
①対象喪失を防ぐために幻想的に対象と一体化しようとする傾向
②対象喪失の兆しさえ恐れ対象に貪欲にしがみつく傾向
③家族など身近な者たちには対象喪失を恐れ幻想的に全能的に他者を支配しようとする傾向
などです。

このような傾向は患者さん自身もご家族もは気付いていないことが多く、表面的には几帳面・熱心・責任感が強い・真面目・問題を抱え込む傾向・他人に配慮的などという特徴として認められ、社会的に評価されている場合も多いようです。

しかし、先ほどももべたように、身近なご家族には融通が利かない・自分のやり方に固執する・頑固・柔軟性がないなどというマイナスの性格特徴として認められることも多いようです。
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うつ病の治療

  • さて、このようなうつ病の治療ですが、それには3つの大きな柱があります。

1つは、お薬を中心とする生物学的治療です。

もう1つは、精神療法(一般的にはカウンセリングとして知られている)であり、

最後の1つは、環境調整といわれるものです。

うつ病で使われるお薬は、主として抗うつ薬といわれるものですが、症状により、抗不安薬や睡眠誘導剤、時には抗精神病薬(妄想や幻覚のお薬)や気分安定化薬(躁うつ病の薬)、さらには抗てんかん薬やパーキンソン病のお薬も使われることがあります。

それぞれの患者さんの症状や治り具合に合せて使われるのですが、ご自身が服用されているお薬については、その種類や量、何のために出されているのかなど、主治医から十分説明を受けておくべきでしょう。

また、どのようなお薬を服用しているにせよ、お薬の副作用は必発すると考えた方が良いでしょう。(★★★現在のお薬で、以下のような副作用が出ることは、殆どありません!)

眠気・口渇・便秘・立ち眩み・手指の小刻みな震えなどが多いのですが、時に、意志とは無関係に眼球が上を向いてしまったり、首が捻じ曲がるような動きが生じたりしてビックリされる方もいるようです。

さらに、とてもじっとしていられないソワソワ感に襲われる方もおられます。

前者は、ジストニーといわれ、後者はアカシジアといわれる何れもお薬の副作用の1つです。

これらの副作用は、使用されるお薬によって様々ですので、副作用とその対処の仕方を主治医と予め相談しておくと良いでしょう。

上述した副作用は、永続するものではなく、多くは1週間から10日位で軽減することが多く、症状が改善してお薬が減量されたり中止になれば消失するもので心配はありません。

上述のジスキネジアやアカシジアなど、お薬の減量や変更、あるいは副作用止めを服用した方が良いこともあります。

副作用の知識とともに重要となることは、うつ病のお薬は、服薬をはじめてから効果が現れるまでにおよそ2週間くらいかかるということです。

焦らずじっくり治療すれば結果は得られるということを念頭に置いておくことです。

お医者さんとの相談なしに患者さんやご家族だけの判断で服薬を中断されたり飲んだり飲まなかったりすると、うつ病からの回復が遅れたりすることが多いので、薬に対する疑問が生じた際にはお医者さんと十分ご相談されることをお勧めします。

何よりも、治療方法や治療方針が理解でき納得できることが治療の前提となります。

納得できる説明が受けられないか、いくら説明されても納得できない場合は、他の医療機関で意見を求めることもよいと思われます。

これを、セカンド・オピニオンといいますが、外国では一般化しています。

次に、精神療法についてですが、これは、主治医との面接のことと考えてよいでしょう。

主治医との面接における留意点は、まず、ご自身が困っている症状を的確に主治医に伝えることです。

これは、診断およびお薬の使い方の指標となります。さらに、現実状況の中でのストレスや気にかかることことも率直に相談されるべきです。

これは3番目の治療の柱である環境調整を行う上での判断材料となるからです。

ある環境や状況がうつ病の原因となっているなら、それを調整することにより早期にうつ病から回復することができるかもしれません。

また、ある環境や状況がうつ病の原因ではないにせよ、うつ病からの回復を邪魔しているものなら、その環境や状況を調整することで、うつ病からの回復の遅延が改善されるかもしれません。
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長引くうつ病と再発の問題

うつ病の経過について考えるとき、問題は、遷延化(長引くこと)および再発の2つに集約されるといっても過言ではありません。

うつ病の患者さんの約7割は6ヶ月から1年以内に十分な回復が見られます。

つまり、およそ3割前後は症状が十分に改善せずうつ病が長引く、すなわち遷延化するといわれています。

しかし、遷延化したうつ病の半分くらいは十分な量のお薬を十分な期間使用していないことによる治りの悪さであるといわれています。

十分な量とは、通常1日量で抗うつ剤225mg~300mg、つまり、1日25mg錠で9錠~12錠とされています。

また、十分な期間とは、6週間から12週間とされています。

このように十分な量を十分な期間投与されても効果のない場合は、非定型抗精神病薬(エビリファイなど)や気分安定化薬(リーマス)、抗てんかん薬(ラミクタールやデパケンなど)、特殊な補強薬を併用することになります。

これらの方法で治療されても全く改善しない患者さんは多くはありませんので、うつ病は良くなる病気であるとお考え頂いてよいと思います。

しかし、一旦うつ病になってしまうと、その半分位が再発を経験すると言われています。

再発の予防のために留意すべきことが2~3あります。

まず、症状が完全になくなってからも、6ヶ月から1年は服薬を続けることです。症状が良くなったからといってすぐに服薬を止めたりすると、早期に症状が再燃することがあります。

主治医とよく相談しながら、まずはお薬の減量を行って経過を慎重に見ていくのがよいでしょう。

服薬により、症状が軽減したなら、対人関係やストレスへの対処行動、性格上の特性や問題点を主治医と十分に話し合うことを勧めます。

発病の誘因となった状況や構造が再発時にも繰り返されていることが非常に多いためです。

性格などはなかなか変えられるものではありませんが、その特性や弱点を認識しておくだけでも結構役立つものです。
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ご家族の方々へ

最後に、うつ病患者さんの家族について一言述べたいと思います。

一般に、うつ病の患者さんも治療に関してかなり性急ですが、ご家族、特に、患者さんが男性の場合の配偶者、つまり家族が妻である場合、患者さん以上に性急です。

この性急さは、うつ病が遷延化して長期に十分な結果が得られないとき、その苛立ちを患者さんに向け、患者さんに皮肉を言ったり、過干渉になって患者さんを責めることが比較的多いように思われます。

このような態度は、治療に良くない影響を与え、さらなる遷延化を誘発するという悪循環を引き起こします。

しかし、このような配偶者の傾向は、中年期の夫婦に特有のようです。

うつ病は働き盛りに発病した場合、特に経済的問題に直面することとなり、ご家族の心の負担が非常に大きなものとなることも影響しているのでしょう。

そのためか、高齢者の遷延化したうつ病患者さんの配偶者には、このような傾向はあまりないように思えます。

高齢者の場合、配偶者が妻であるときは、無力的で服従的な妻であるか、情緒的反応性の乏しい無反応無関心型の妻である場合が多いようです。

しかし、高齢者で過干渉な妻と自閉型のうつ病(治療者にも依存してこず心を開かないタイプのうつ病)の男性患者さんとの組み合わせは、自殺という最悪の結果を招く可能性が高いように思われますので注意を要します。

このように述べてくると、ご家族がまるで悪者のようにいっているように感じられるかもしれませんが、けして、そうではありません。

うつ病からの回復にご家族はお薬やお医者さん以上に大きな力を持っているということなのです。

ご家族のご負担などもお医者さんとよくご相談されることをお勧めします。
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痴呆など老人の病気    福岡大学病院精神神経科元外来医長 米澤利幸

老人のうつ病

うつ病とは非常に広範な疾病群を含んでおり、一概にうつ病を論じることは殆ど不可能といえます。

しかし、神経症に対するうつ病という場合、いわゆる内因性うつ病のことを指すことが多いようです。

一般の方々には'内因性'という言葉に馴染みがないと思われますが、内因性うつ病とは、「現時点ではいまだ明らかとはなっていないが、何らかの生物学的(身体的)要因が発病の原因となっているうつ病」というほどのもので、抑うつ気分・意欲や活動性の低下・午前中の不調を典型とする症状の日内変動・早朝覚醒・体重の減少など、一連の比較的画一的症状を特徴とする心の病気と考えて良いでしょう。

一方、神経症とは、種々の葛藤を心の中で処理する際の、問題のある処理の仕方に起因して生じる、主として単一的症状が発現する心の病気といって良いでしょう。

うつ病と違い、発現する症状に応じて、それが「不安」であれば「不安神経症」、「抑うつ」であるなら「抑うつ神経症」などのように呼ばれます。

神経症の場合、発現する症状が、それぞれの神経症によりかなり明確に区別され特徴的であるのに対し、うつ病は、先にも延べたように、症候学的画一性のある症状の集合体であると言えるでしょう。

余談ですが、このため、医師が同僚と論議する際、「この患者さんはうつ病です」と言われれば、詳細を聞かなくとも漠然とした病気のイメージが浮かぶものですが、「この患者さんは神経症です」といわれると、どの神経症なのだろうと困ってしまい、その病気をイメージすることができないものです。

もっとも、うつ病でも後述のように、かなり症状の現われ方にはバリエーションがありますが、大まかにうつ病というだけでそのイメージは十分に伝わってきます。
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老人の神経症

話しを各疾患の特徴に戻しましょう。神経症のうち、不安神経症に関してはここでは触れないことにします。

高齢者の神経症で重要と思われるものは、先に延べたキーワードの1つでもある'心気'を主とする、心気神経症といわれるものです。

心気とは、乱暴にいえば「身体の症状」といってよいでしょう。身体の病気ではないのに色々な身体の症状が出てくるのです。動悸・息切れ・めまい・肩凝り・頭痛などあらゆる身体の症状が出現します。

自覚される身体症状にはいかなる身体的原因もないという医師の保証にもかかわらず、やっぱり何か病気があると不安になってしまいます。

それ故、医学的検査をしてもらわないと安心できず、検査してもらって悪い所はないといわれてもやっぱり何か病気があるはずだと病気への不安が解消されません。

そして繰り返し身体症状を訴えます。

各種のストレスや葛藤が原因であると明らかに推測できる場合にも、それらと症状の関連について話し合うことに抵抗するという特徴があります。

高齢者の場合、心気という症状の裏に、他者(特に家族)や現実状況への怒りや攻撃性、他罰的色彩が垣間見られるように思えます。

治療者に対しても同様に、依存的ではあるけれども挑戦的でもあります。症状においてはある種の傲慢ささえ感じられることがあり、医師との関係は、特に身体科のお医者さんとは非常に険悪となる場合が多いようです。

さらに、ドクターショッピングといって、あちこちの病院を渡り歩いて、それぞれの病院で上記のような不快な体験を繰り返した後に精神科を受診することが多いため、医師に対する無意識の攻撃性が、精神科初診時に既に内在化されていることがあります。

そのような場合、患者さんの無意識のニーズが、前医達の不遜な行為の贖罪として、目の前の精神科医が永遠に服従することであると想定されるようなこともあり、治療関係が深まらず、治療が進展しないことも少なくありません。

患者さんが治療者に不満があっても、それを自ら述べることはありません。

それを面接で取り上げても、その不満を表明されることも極めて少ないように思われます。

治療者への不満は、症状の悪化としてのみ表出されるようです。

お薬は、お薬を出すお医者さんとの情緒的関係がよほど良好なものものでない限り、副作用の訴えばかりが目立ち、あまり効果はないようです。

このように、治療はなかなか困難で、うつ病に心気傾向が伴った場合も、うつ病自体の回復が遅れるといわれています。

患者さんの側からみて、治療者との面接において、何がしかの安心感や信頼感などが感じられるようなら治療は良い方向に向かっていると考えられてよいと思います。

大きな進展はなくとも、毎回繰り返し訴えられる身体の症状を、嫌な顔をせず真剣に聞いてくれるお医者さんに出会ったなら、結果を急がずその医師に治療してもらうのが賢明です。

やがて、あなたの訴えを、'優しい笑顔で'聞く医師の、その'笑顔に'対して、あなたが自分でも理解しがたい嫌悪感を感じていない自分を発見するでしょう。

その時、治療は7割がた達成されたといえるのです。日常生活のしやすさもかなり改善しているでしょう。
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老年期妄想症

次ぎに、妄想症についてですが、単に妄想ということであれば、うつ病にも認知症にも出現します。

うつ病の妄想は、抑うつ気分の延長線上にあるものとして理解しやすい貧困妄想や心気妄想、罪業妄想が出現しやすいようです。

認知症による妄想は、もの盗られ妄想が有名ですが、被害妄想が圧倒的に多いように思われます。

妄想性障害と診断される本来の妄想症は高齢者の場合にはそれほど多くないようです。

本来、妄想とは、「現実に生じていない物事が、並々ならぬ確信を持って生じていると判断し、そうではないとの説得や証明に対しても、その確信性が動揺せず訂正不能である」という特徴を有しています。

しかし、高齢者の妄想の場合は、善意ある温かい係わり合いを介しての説得で、妄想の確信性が動揺しやすいという傾向が伺えます。

全ての疾患の治療にいえることですが、お薬の投与に加えて、治療者と患者さん、患者さんとご家族、そしてご家族と治療者など、それぞれの間で、暖かで良好な信頼関係を構築することが大変重要となります。
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認知症

最後に、認知症について述べたいと思います。

一般の方にとって、痴呆といえばアルツハイマー病という名前がすぐに浮かぶほど、近年マスコミ等に取り上げられることが多くなりました。

アメリカのレーガン前大統領が、自分がアルツハイマー病であることを告白し、残されたナンシー夫人の行く末を心配して、夫人の助けになって欲しいという友人への手紙が公表されてアメリカ中を感動させたことがわが国でも報道されてから、アルツハイマー病という用語が、さらにわが国でも一般化したようです。

従来、わが国では、脳卒中などに起因する、いわゆる血管性痴呆が最も多いとされてきました。

しかし、近年では、欧米と同様、アルツハイマー型の痴呆が多いという意見が優勢になっています。

いずれが多いかは確定的ではありませんが、両者で全痴呆の大部分が占められているといわれています。

どちらの痴呆も、症状の中核は記憶障害です。

昔のことは比較的良く覚えているのに、昨日今日のことはすぐに忘れてしまうという特徴があります。

これら記憶障害以外に、ご家族を非常に困らせる問題行動が生じることが多く、これらを周辺症状といいます。

周辺症状には、身体機能の問題、行動における問題、精神症状などがあります。

身体機能の問題としては失禁・歩行障害・寝たきりなどがあります。

行動上の問題としては、夜に家族を起こす・不潔行為・外出して迷う・大声を挙げる・徘徊・家族を離さない・攻撃的となる・便所外での排泄・火の不始末などがあります。

精神症状としては、睡眠障害・抑うつ・被害的になる・妄想・興奮・感情失禁、そして、せん妄があります。

せん妄というのは、軽度の意識障害であり、夜中に起こることが多く、窓から男の人が覗いているとか、知らない人が部屋に入ってきた等といって夜間に騒ぎ立てるというような状態を指します。

治療についてですが、記憶の障害に対するお薬は、現在わが国ではアリセプトというお薬のみが認可されておりこれを使うことになります。

周辺症状に対するお薬はありますので、周辺症状はある程度改善することが可能です。

しかし、認知症患者の治療において、最も重要となるのはご家族の対応であると思われます。

ご家族にとって、実の親や配偶者がボケていくのは実に耐え難いことです。

耐えられないというより、むしろ、受け入れられないといったほうが良いかもしれません。

親や配偶者に対する思い入れが深いほど、親や配偶者がボケていくことを受け入れられず、何とかしてボケを治そうと腐心して、新聞の社説を書写させたり、日付を忘れないよう1日に何十回も日付を覚えさせる訓練をさせたりするご家族がいます。

患者さん本人が楽しんでいる分には良いのですが、必死になって訓練させているご家族は、多くの場合、思うように成果を上げられない患者さんについ攻撃的になっていまうようです。

こうなると、ただでさえできないことをするよう強要されているような患者さんにとっては、益々、心の安寧が得られなくなり、抑うつ的となったり、不安が増強したり、時には妄想的となったり、認知症状そのものが悪化したりさえします。

善意による悪循環が形成されるのです。

改善できる症状は改善させるよう努力するのは当然ですが、改善の可能性のない症状まで改善させようとして、それを強要することは厳に慎まなければなりません。

そのあたりの判断はご家族には難しい場合が多いため、専門医に相談する必要があるでしょう。

とにかく、患者さんの残された能力の中で、患者さんがリラックスでき、患者さんのペースで生活できる環境と関係を作れるようにすることが大切です。

ただ、ご家族の対応にも限界のあることをご家族自身も理解しておく必要があります。ご家族が患者さんの介護を抱え込みすぎて燃え尽きてしまうことがあります。

いくら親身になって介護しても全く患者さんの状態が改善しないため疲れ切ってしまうのです。

このような場合に患者さんへの虐待(介護者に良く起こります。つねる・叩く・放置する・食事を与えないなど)は生じないにしても、患者さんによくない影響を及ぼすことがあります。

介護者の心の余裕がなくなってしまって、患者さんがそれに反応してしまうことがあるのです。

そのため患者さんの問題行動が悪化したり誘発されたりしてしまうのです。

このような燃え付きを予防するには、社会資源を利用して家族の負担を減らすことが重要となります。

社会資源とは、デイサービス・ホームヘルパー・ショートステイなどのことで色々なサービスが自治体により提供されています。

通常住居区域の保健所に設置されている在宅ケアホットラインに電話して相談されると良いでしょう。
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パニック障害    ささき心のクリニック 佐々木裕光

概略

パニック障害という病名は1980年に提唱された新しい概念ですが、病気自体は昔から知られていて、不安神経症とか自律神経失調症とか心臓神経症などの診断がつけられていたようです。

この病気はパニック発作をくりかえすことを特徴としますが、発作は突然に起こり、息苦しさ、動悸、発汗、手足のふるえやしびれ、胸の痛み、吐き気、めまい、非現実感、体の熱感や冷感、死んでしまうのではないかという恐怖感、自分のコントロ-ルを失うのではないかとの不安感などの症状のいくつかが経験されます。

多くの場合は30分から1時間で自然におさまるのですが何度も繰り返すという特徴があります。

また、その症状の激しさや不安感から救急車をよぶ人も多いようです。

毎週のように救急車をよぶ人も少なくありません。

ですが、検査をしても「異常なし」と判断され帰されることが多いのです。

自分自身の「強い不安感や身体的苦痛」と医療関係者の「異常なし」との判断のギャップのために苦しむ人も多く、仮病とかヒステリ-とのレッテルを貼られる人もいます。

ここで強調しておきたいのは、治療をすれば発作自体は1~2ヵ月で治るということと、慢性化すると様々な合併症を伴い生活上も大きな支障をきたすことがあり年単位の経過になりやすいということです。

この慢性化した時の状態は後に説明するとして、まず病気の一例を挙げてみましょう。

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症例 45歳 男性 会社員

数年前の5月頃、取引先の会社へ車で向かっている時、突然、胸が締めつけられるような苦しさが襲ってき、生汗が出てき、深呼吸をしようとしても空気が喉から先に入らず、慌てて車を止めたが、車中におれず外に飛び出した。

すると目がまわる感じがし立っておれず「心筋梗塞では」との考えで頭が一杯になり車を放置したまま救急車をよんだ。運ばれたA病院で心電図やレントゲン検査、血液検査を受けたが「異常なし」と言われた。

その時は先程の体の不調は嘘のようにおさまっていた。

ところが一週間後、地下鉄に乗っていると同様の症状を経験し、そのままB病院に入院した。

頭部CT、MRIをはじめ、内科、脳外科、耳鼻科で詳しく検査を受けたが「異常なし」の結果であった。安定剤を処方され退院となったが、「体の病気だ。薬づけになりたくない。頭がぼけるのでは。」の考えから一度も服薬しなかった。その後も軽い動悸と息苦しさ、めまいは毎日続き、特に人込みや乗り物の中で起こるようになった。

「またあの発作がくるかも。」と次第に不安が強くなり地下鉄も電車も乗らなくなった。

仕事中に運転が必要な時も、同僚に運転を頼み、決して一人では車に乗らなくなった。

また、体調が悪いと仕事を早退しては色々な病院を受診するようになった。

会社からの出張命令も断るようになり、会社を辞める方が良いのではと悩むようになった。
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症例の解説と合併症状について

さて、紹介した症例は典型的な経過をたどっています。

精神症状というより身体症状が前面に出ていることに気づくでしょう。

患者さん自身も体の病気と考えやすい状況です。

実際に同じような経過で、心臓の病気や甲状腺機能亢進症のようなホルモンの異常、低血糖発作や更年期障害などが見つかることも多いのです。

この患者さんは、「またあの発作がくるかも。」という不安を抱くようになっています。

これを予期不安と呼びます。

予期不安は身体疾患でもよく見られますが、この患者さんは発作を経験した車や地下鉄を避けるようになっています。

これは空間恐怖とか広場恐怖と呼ばれパニック発作後に発展しやすい症状です。

多くの人が発作を経験した状況が苦手になるのですが、経験とは関係のない状況を避けるようにもなります。

多い状況は、電車やバス、高速道路やデパ-トや映画館のような人込み、理髪店や歯科治療などです。

また一人で家に居れなくなる人もいます。

数年間も一人では外出したことがないという人もいます。

パニック障害の中にはこのような空間恐怖を伴う場合と伴わない場合があります。

慢性化している人には、このような予期不安や空間恐怖という症状を持っている場合が多いようです。

その他にも合併しやすい症状としては、心気症やうつ状態があります。

心気症とは過度に体の状態が気になり検査入院をくり返したり、いくつもの病院を受診してしまう状態をいいます。

うつ状態とは精神的に疲れ切ってしまった状態のことです。

これらの合併症状は、ぎこちない対人関係をもたらしてしまい、本人だけでなく家族や周囲の人も悩まされてしまうことがあります。

どのような経過をとりやすいかは、私の研究と臨床経験からは、いくつかのタイプに分けられることが分かっています。

病気になる前の元々の性格にも影響されるようです。いくつかのよく見られるタイプを紹介してみます。
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経過からみたタイプと養生上のポイント

①原因さがしに躍起になる人
「何故自分がこのような病気になるのか、こんな弱い人間ではないはずだが。」と訴え心理的な原因や環境上の原因を必死に見つけようとする人がいます。

このような人は、自分で納得のいく原因を見つけ出すと治療もスム-ズにいき、数カ月の経過で薬も飲まなくてすむようになります。ですが、治療の始めから考え過ぎると逆に症状が悪化したり、治療者との知的論争に陥って軽度のパニック発作が長引くことがあります。

薬により1~2ヵ月で発作は治りますので、薬の説明と治療の見通しを十分に納得がいくまで治療者に尋ね、発作がおさまってからの原因さがしが良いようです。

②頭の中では体の病気ではないかと常に考えてしまう人
知人や身体科の先生から勧められ精神科を受診はしたものの、体の病気ではないかとの懸念がある時は治療は進まないものですから、自分で納得がいくまできちんと体の検査を受けてみることが大事です。

中には精神科の治療も身体科の検査も両方ともが中途半端になって治療が進まないことがあります。治療にのるまでに数カ月から数年におよぶこともあります。

③服薬や受診が不規則になる人
約束の受診日を何度も変更したり、服薬が不規則になる人がいます。

自分の症状や治療者に伝えたい何かを言いだせないでいる時もあるようです。

治療者と患者さんとの相互理解を得られるかどうかに治療の成否はかかっています。

他の対人関係でも信頼するのに時間のかかる人のようです。

④空間恐怖だけが残っている人
このタイプの人は結構多いようです。先程の症例で書いたような予期不安のために発作は数カ月もないにも関わらず薬の減量を恐れる人がいます。

このような人は空間恐怖も残っている人が多いようです。

恐らくは電車にもバスにも乗れる程度には改善しているのですが、「もしも、また発作が・・」との気持ちから「一生バスや電車に乗らなくても構わない。」と決めてしまい冒険をしない人達です。

それ以外の日常では大きな支障はないので一応の安定が続いているのです。

知ってもらいたいのは、薬は発作には効いても空間恐怖には効きにくいのです。

自分の症状にどのように挑戦するかが課題です。

簡単な身近なことから目標を決めることが必要ですが、長続きさせるには、家族や友人の手伝いを必要としたり、特別な事情がきっかけになったりします。

薬を増やしてでも挑戦する気持ちが大切です。

変化することを嫌うために常用量の薬に依存してしまう人が多く、処方してもらうだけの形の治療が数年単位で続くこともあります。

⑤パニック発作も空間恐怖もないが薬が手放せない人
「もしも、また発作が」の感覚が拭いきれずに「お守り」として薬を持ち歩いている人や一日に取り合えず1錠あるいは半錠は飲んでしまう人がいます。

医療従事者からは「その程度ならいいでしょう。」と言われがちですが、不安は慢性化し引っ込み思案に成りがちです。

生活の中に新しい楽しみを見いだしたり、運動の習慣ができてくると克服できるようです。

⑥うつ状態が強い人
治療経過の中で多少は元気がなくなるのは普通ですが、憂うつ感が長く続いたり今までに経験したことがない程に落ち込んでしまった時は「うつ病」に準じての治療が必要になります。

パニック障害の人の引きこもりには現実へプッシュする方が良いのですが、うつ状態の時には休養と薬物の変更が必要になりますので、専門医に相談した方が良いでしょう。

⑦気持ちの高ぶりから発作の起こる人
薬だけでは症状がとれにくい人達です。

心理的な背景や環境上の工夫が必要になります。

いわゆるパニック障害とは違う範疇で考える方が良いようです。

また10代から20才前後でパニック発作様の経験をする時も違う病気が隠されている可能性がありますので専門医に相談した方が良いでしょう。
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一般的な治療について

①薬物療法
発作が続く時は、ベンゾジアゼピン系の薬を使います。

ソラナックスあるいはコンスタンという商品名の薬が最もよく使われます。

この薬以外にもレキソタン、ワイパックス、デパスなどの薬があります。

効き方は、1~2ヵ月の間に発作の回数が減り、たとえ発作がおきても以前程の強いものではなくなっていきます。

人によりますが発作がなくなってから6ヵ月位は維持するのが普通です。

特効薬といわれる位によく効きますが、依存性がありますので止める時には工夫が必要です。

1週間に1錠ずつ位にゆっくりと減らしたり、止めやすい薬に置き換えたりします。

私は同じベンゾジアゼピン系のメイラックスという薬を併用したり置き換えたりします。

この薬は急に服薬を中止しても体からゆっくりとしか抜けませんので薬物離脱期の不快な症状に悩まされずにすみます。

一般にはトフラニ-ルやアナフラニ-ルのような抗うつ剤も使用されますが、SSRIとして分類される新しい抗うつ薬であるパキシルというお薬が使われるます。

ベンゾジアゼピン系の薬と違い依存性がない点が良いとされます。
しかし、効果が出るのに時間がかかる点と体に不快な副作用があるために私は使っていません。

ここでベンゾジアゼピン系の薬への依存性と長期連用について注意するべき点に触れておきます。
WHO(世界保健機構)の会議報告書(1993 年) の中で,Saraceno,B.らはベンゾジアゼピン系抗不安薬長期服用による依存形成発現率を,4か月以下では0%,5~12か月で5~10%,2~4年で25~45%,6~8年で75%と報告しています。

患者さんの中には「長く飲んでいると薬が効かなくなるのでは?」と心配する人がいますが,一般にそのようなことはありません。

依存形成とは,効果は続くけれども止められない状態のことで常用量が続くことです。

ですが,副作用として,眠気やふらつき,脱力感や倦怠感などがでることがありますので不必要な連用は避けるべきです。

特にアルコールとの併用では酔いが強くなったり予期しない副作用がでることがあるので避けたほうが良いでしょう。

②行動療法
パニック障害の発作は薬でまず100%治ります。

しかし、空間恐怖や予期不安に対して薬はあまり有効ではありません。

具体的に自分には何ができないのかを明確にし、身近なことから目標をたてて実行するようにします。

例えば一人で外出ができない場合は、ノ-トを作り、散歩コ-スを考えてもらい、まずは家族と一緒に歩いてもらい、次第に一人で遠くに歩いてもらうなどです。

③精神療法
発作自体は「体質」が原因と考えられているようです。

ですが経験的には、「生き方が大きく変わると自覚した時」など人生上の岐路に立っている時に起きやすいように思います。

多くの患者さんにとって、発作や空間恐怖という症状がなくなれば良いというわけではなく、症状発現は「自分のあり方を問い直す体験」となるようです。

特に夫婦関係のあり方が話題になることが多いようです。

心理的なサポ-トが必要になってきますが、ある程度の症状が薬物で軽減してからの方が良いと考えます。

④集団精神療法
数年前に台北の C.P.Chien先生が指導されている20人位の集団精神療法に見学参加したことがありますが、お互いが支え合うグル-プとして効果的に機能していました。

発作の急性期から導入されていましたが、むしろ慢性期や空間恐怖を克服するのに有効と考えています。

日本では中々集団治療が馴染まないと思っていましたが、最近ではいくつかのグル-プができているようです。

福岡にも患者さんが主体になってのグル-プが活動を始めているようです。

⑤運動療法
パニック発作も慢性期の不安緊張状態も自律神経失調状態を伴います。

そういう意味からも、臨床経験からも、運動は有効なようです。

特に、発作はおさまり、空間恐怖があるなしに関わらず状態が固定している人達には薬の代わりになるようです。

毎日1時間位の散歩の習慣ができた時は、一日3回位の薬は止めていけるようになるようです。

身体的なバランスだけでなく、精神面でも自信がつき、自律性を回復する過程となることがあるようです。お一人ででも、御夫婦ででも試してみてはどうでしょう。

⑥生活習慣上の留意点
アルコ-ルやカフェインは発作をおこしやすくします。

多くの量を飲みすぎることは勧められません。

厳しい治療者は禁止すると思います。

特にベンゾジアゼピン系の薬や抗うつ剤との併用は副作用をもたらすので注意が必要です。

しかし、状態が安定してくると生活の中に楽しみや潤いを再発見することも重要なポイントになります。

私は連用でなく節度ある飲み方ならばある程度は許されると考えています。
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家族にとってのパニック障害

多くの患者さんが悩むのは、「この病気は外から見ても分かってもらえない。

気のせいだから、しっかりしとけば治る。」と思われることのようです。

何度も救急車を呼ぶ人がいるように、また経過が慢性化したり、治療が長引くこともあるように、患者さんにとっては大変な体験であることを理解してもらえる良いと思います。

しかし、理解は同情という意味ではなく、可能な範囲で治療協力者になってもらいたいという意味です。

優しくすることが時に患者さんの依存性を増し治療を複雑にする時もありましょうし、家族が一緒に散歩をしてくれて空間恐怖を乗り越える時もあるでしょう。

また、夫婦関係自体が危機に直面する時もあるようです。

人は精神的な危機に直面すると、その病気だけでなく様々な葛藤や弱みを露呈してくるようです。

無視をせず、治療者に会いに行くのが良いと思います。

特に長く病気と闘っている患者さんを持つ家族にとって、病気はすでに患者さんだけの問題ではなく家族の問題になっているはずだからです。
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摂食障害    可也病院 鈴木智美

最近、若い女性を中心にして、拒食、過食、嘔吐といった食べることに問題をもつ人が増えています。

この病気は90% 以上が女性で、しかも10代から20代にかけて、心も身体も大人へと変化成長するいわゆる思春期青年期の時期に多いのです。

この背景には、女性の理想的スタイルがスマ-トであることを強調する社会現象がありますが、もうひとつ、女性のライフ・スタイルの変化に伴い、何が女性らしいことなのか、女性としてどう生きるべきかの疑問や迷いが影響しています。

私たち精神科医は、こういった問題を「摂食障害」という疾患として捉えています。

表面的には、食行動から生じた身体の問題なのに、何故精神科医が関わるのかというと、女性になることのこうした心の葛藤 (対立する欲求がほぼ等しい強さで同時に存在するために行動決定が困難となる状態) から問題が起こってきていると考えられるからです。

また、行動異常、身体の障害に加えて、必ず、友人や家族とうまくいかないというような対人関係の問題や憂うつな気分、漠然とした不安、暴言や暴力が生じてくることも多いのです。

この冊子の中で、私は、摂食障害についての考え方や心の模様、治療や若干の親御さんの対応についてお話ししたいと思います。
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診断

摂食障害の診断については、いくつかの診断基準があります。基準によって多少違いがあるのですが、おおざっぱに言って、拒食状態では、標準体重の-20%以上のやせ、身体イメ-ジの歪み、体重が増えることへの恐怖、無月経 (生理がストップすること) となること、そして体重減少を説明する身体の病気がないものを言います。

もうひとつ、表面的には反対の病態ですが、過食症があります。それは、むちゃ食いのエピソ-ド、体重増加を防ぐために嘔吐や下剤乱用をする状態です。

この二つの病態は、一見両極のように見えますが、痩せ願望、肥ることへの恐怖が二つに共通する根本的問題です。

体重が30kgを割ると、無月経だけではなく、皮膚にはうぶ毛の密生が現れ、さらに便秘、むくみ、低体温、低血圧、徐脈などの内分泌代謝障害が生じてきます。血液検査では、貧血、白血球減少、血液尿素窒素の上昇、コレステロ-ルの上昇、膵臓の働きを示すアミラ-ゼ値の上昇、甲状腺異常、ナトリウムやカリウム値の低下が出現します。

また、長期間の低栄養状態は脳の萎縮をもたらしますし、脳波の異常も出現し、記憶力や集中力が低下します。体重が一定以下の期間が続くと、意図的に始めた禁食でも、身体自体が栄養を受け付けない状態が形成されます。

その結果死に至ることも稀ではありません。

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身体の変化の否認や拒否

ここでは、摂食障害の90% 以上が女性なので女性の場合を中心にお話ししたいと思いますが、思春期になると、否応なく第2次性徴といわれる身体の変化が起こってきます。

それは、初潮、恥毛の発生、乳房の発育、骨盤が発達し皮下脂肪が沈着して丸みを帯びるといった変化です。この変化は性衝動とともに、得体の知れない不安、心細さを生みます。

自分との間に不協和音を生じ、自分の身体は異物のごとく感じられますから、変化を否認したり、拒否したりしたくなります。

とくに、自分が女性であることを受け入れる準備ができていないと、性的色彩を強めていく身体は恐怖であり、嫌悪に満ちたものになります。

少女にとってお母さんはよき人生のモデルとなるはずですが、お母さんがその生あるいは性を子供からみて生き生きと送っていない時、「母親のようになることが大人になること」なら、少女たちは成熟を拒否せざるをえなくなります。

ことに女性に求められる理想像が昔と今とでは違いますし、価値観も異なりますから、お母さんの世代での生き方に疑問を持つ少女たちは多いのです。

こうして変化する自分の身体は脅威となります。
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家族との問題

 この病気の背景として家族との問題が取り上げられますが、必ずしも「家族が原因」というわけではありません。

しかし、家族の成員と病気に罹った娘との間に感情的食い違いがあることは事実です。

一般に言われていることは、「その家庭は一見平和で、経済的にも社会的にも恵まれている場合が多い。

父親は地位を築いているが家庭にあっては妻に引け目を感じている、あるいは父親不在のことが多い。

他方、母親は高い教育を受けてはいるが、自分のしたいことを十分には成就できずに、その夢を子供に託す傾向がある」という内情です。

この結果、娘は従順で自分の意志を抑えて親の期待に応えようとし、成績優秀なよい子となります。

その娘が思春期になり、自我に目覚め、今までの方法では自分の感情に対処できないことを知って困惑し、これまでとは違う態度を親に対してとりはじめます。

親御さんはこの変化に驚き嘆くのです。

娘の過敏で易刺激的な態度はお母さんに対して特に激しく発揮されます。

それは、お母さんを自分の将来の姿、女性のモデルとして捉え、お母さんを「聖母的な母」と「女性」の両者として理想とするのですが、実際にはそう理想的ではありえませんし、「聖母」と「女性」は矛盾するものですから、ある場面では依存するのに、ある場面では攻撃するといった形をとることになります。

一方お父さんに対しては、一番身近な異性ですから、思春期の少女たちは好意を持ち近づきたい衝動を持ちますが、行動としては控え、むしろ拒絶的態度を示します。

現代の少女たちが父親のパンツを別の洗濯機で洗うといったことはその最たるものです。

この態度は自然ではありますが、潔癖でありすぎる摂食障害の娘たちはこの傾向性を強く表し、お父さんを拒否する結果となります。

あるいは、逆にお父さんにべったりとなることもあります。

お父さんが不在であったり、厳格すぎたり、態度が一貫していなかったり、共感しすぎる場合にはこの極端性はさらに強まります。

また、ご両親の夫婦としての姿に肯定的な感情を見いだせず、性を嫌悪することも特徴でしょう。

お父さん・お母さんそれぞれには愛情を感じることができても、カップルとしてのご両親を受け入れられないことはよくみられます。

兄弟姉妹に対しては、羨みややっかみといった態度をとることがあります。

「お姉ちゃんばっかりで私には何にもしてくれない」「妹は可愛がられているのに、私は所詮いらない子なんだ」という思いを持っています。

これは自己評価の低さを表した言葉で、ご両親からの愛情を受ける資格がないと捉えているのです。

ご両親の立場からすると、十分に愛情を注いでいるし、親として他の家庭と変わりなく世話し育ててきたにもかかわらず、娘には違う様相で捉えられていることがあります。

どちらが正解というのではなく、互いのずれを認識することがまず必要です。
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治療

①入院治療
もし問題が生命の危機に迫っていれば、いくら心理的原因を整理しても間に合いません。

身長との兼ね合いで異なりますが、体重が25Kg- 30Kgを割ったら、まず、身体状況の改善を優先させます。

点滴やIVH といわれる高カロリ-輸液、鼻から管を通して栄養を入れる方法を取ることもあります。

飢餓によって身体のバランスは崩れていますから、一気に栄養を送り込むことも危険となるため、この時期には入院して医師の管理下で徐々に治療を強めることが必要です。

 この病気に罹る少女たちは病気であることに満足していますから、身体的危機を脱した後にも、治療を受けることの必要性を自覚するまでは、入院を継続する必要があります。

しかも、行動で表現していた感情を自分のものとして感じられるようになるまでは、個室で自らの感情と向き合うことが勧められます。

その後、他の患者さんたちとの交流を通じて人との関わり方の練習をすることも大切でしょうし、入院中に自己評価を高める経験を積むことも必要です。

作業療法をしながら、感情の表現のしかたや楽しみ方を学ぶこともよい結果を生みます。

入院中は、ご両親は親としてごくふつうに振る舞うのがよいのです。思いやりと愛情を基調にして素直に話し合う姿勢が大切ですし、必要であれば叱ることもよいと思います。

親から見捨てられていないという安心感と一体感を経験するのはよいことです。ただ、食物や原因探しに関しては治療者に任せるほうがよいでしょう。

②個人面接
面接の中では、まず、言葉で自由に自己表現をする体験をします。

安心して自分だけの思いを語る場所が確保されることは重要です。批判されることなく自分を受け入れてもらえることは欠かせません。

病気である自分と治りたい自分とがいることに気づいていくのも、この面接を通してですし、痩せていなければならない思いを語れるのも面接の中だけでしょう。

面接は迷える心の中そのものですから、ここでの内容は治療者と患者さんとの秘密でなければなりません。

親御さんや他のスタッフが公然と知りえることではいけないのです。

もちろん、治療を進めていく上で「秘密にしておけない」と治療者が判断した時にはご本人の了解を得た上でご両親や他のスタッフに伝えることはありえます。

しかし、基本的には信頼を結べる相手としての治療者でなければなりませんし、面接はその信頼を重ねていく場所なのです。

ご両親が面接内容に興味をもたれるのは当然のことでしょうが、時と場合によっては、親は最も相談しにくい存在ですから、面接内容を詮索することは控えられるほうがよいでしょう。

ただ、本人が語ることには十分に耳を傾けて下さい。

正直な意見の交換をすることは望ましいのですが、押しつけになったり、変に譲歩や妥協をしたりすることはすべきではないでしょう。

③グル-プ療法
現在、当病院では、摂食障害のグル-プ療法を行っています。

患者さんであるご本人とご両親の2 つのグル-プからなります。

ご本人に対しては、まず身体を自分のものとして受け入れられるようになるために、心理劇という手法を使って、リラックスして自己表現ができるようにします。

そして、同じ問題で悩む人と問題点を話し合ってもらいます。時に医師が中心になって、摂食障害についての知識を得る時間を設けることもあります。

ご両親のグル-プでは、主に、同じ問題を抱えるお子さんをお持ちの方同士の悩みや苦闘ぶりを吐きだせる場所の提供と、病気へのご理解をして頂ければと考えています。

グル-プ療法だけでは、問題の根本解決にはなりませんが、ご本人もご両親も病気を世間には内緒にしている場合が多いですから、同じ仲間との交流は勇気づけられますし、視野が広がって先が見通せるようにもなります。
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おわりに

摂食障害の治療は決して簡単なものではありません。

短期に、自然によくなるものでもありません。

適切な治療がなされなければ、身体は元に戻っても、心に取り返しのきかない傷を残します。

活動的ですから「痩せていても大丈夫」「病院だけは連れていかないで」という娘の言い分や懇願は、親心を揺さぶります。

けれど、娘は確実に痩せ細り、心の叫びは大きくなっていきます。

摂食障害は少女が女性になっていく過程の揺らぎと考えられます。

現代では女性になることは、とても矛盾した現実を生きねばなりません。

一方ではいわゆる『男性』のごとく社会で自立し成功をおさめ、他方では従来からの『女性』の生き方、すなわち控えめな良妻賢母の生き方、このふたつの生き方の狭間で立ち往生し困惑するのです。

モデルとなるべきお母さんは、おそらくその一方を諦めている場合が多いので、少女はますます大人の女性にはなりたくなくなります。

こうした少女の揺らぐ心に沿って一緒に悩むことが治療のひとつとなりますし、既存のものではなく、その少女なりの女性像を描けるようになることが治癒につながります。

この病気は治りにくい病気ですが、治らない病気ではありません。勇気をもって精神科のドアを叩いて下さい。一緒に病気と格闘する治療者に出会えるはずです。

参考図書

摂食障害の心の世界について理解を助ける本として、以下のようなものがあります。
①思春期やせ症の謎-ゴ-ルデンケ-ジ- ; ヒルデ・ブルック著 紀伊国屋出版
②鏡の中の少女; スティ-ブン・レベンクロン著 集英社文庫 (小説)
③鏡の中の孤独; スティ-ブン・レベンクロン著 集英社文庫 (小説)
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