最新医学の情報乱れ読み/2012-03-13
長期記憶形成の分子機構2
- 前初期遺伝子Arcの機能解析(シナプス可塑性への関与)
神経細胞に高頻度のシナプス刺激を与えると、前初期遺伝子と呼ばれる一群の遺伝子が速やかに、かつ一過的に活性化される。
前初期遺伝子の一部は転写制御因子をコードしており、その遺伝子産物は刺激後の遺伝子発現の長時間にわたる変化を引き起こすスイッチの役割を果たしていると考えられている。
zif268も転写制御因子をコードする代表的な前初期遺伝子。
前初期遺伝子には、その産物が直接神経細胞の形態やシナプス伝達に変化を引き起こすものもある。
刺激中または刺激直後の短期間のタンパク合成やmRNA の合成を阻害すると、シナプス変化は短期的には起こるが、長期間は持続しない。
このことから、前初期遺伝子群の発現はシナプス変化を長期的に保持するために必須な現象であり、神経回路の再編成に重要な役割を果たしていると考えられる。
長期的なシナプス変化の分子機構を探るため神経活動依存的に誘導される前初期遺伝子群を単離した。
その中の一つArc遺伝子は、刺激に対して極めて高い発現誘導性を示し、細胞核で合成されたArc mRNAは樹状突起へ能動的に移行して活性化したシナプス部位に蓄積するという特徴的な性質を持つ。
またArc遺伝子産物も活性化シナプス部位に蓄積することから、局所タンパク合成によって、産物の分布が制御されている可能性もある。
ラットにおいてアンチセンスオリゴ核酸を用いてArc遺伝子産物の発現を抑えると、海馬のシナプス長期増強(LTP)は起こるが、その後の保持が障害されること、同時に水迷路での空間学習は成立するが、記憶の固定化がうまくいかないことが示されている。
ます。
核で合成されたArc mRNAは、そのmRNA配列中に存在する特別なシグナルによって能動的に樹状突起に運ばれる。
輸送されたArc mRNAは活性化された後シナプス部位において蓄積する。
通常のmRNAは細胞体でタンパク合成がおき、樹状突起には輸送されない。
最近、Yeast 2-hybrid systemによるスクリーニングの結果、Arcタンパクはカルシウム・カルモジュリンキナーゼII (CaMKII)と結合することがわかった。
CaMKIIは細胞内カルシウム濃度をリン酸化シグナルに変換する役割を果たし、シナプス伝達効率の調節に重要な役割を果たしていると考えられている。
また、Arcタンパクは細胞骨格タンパクであるアクチンとの結合能を持つことから、我々は、ArcタンパクはCaMKII等の分子をシナプス後膜の特定の場所につなぎ止めておいたり輸送したりするのに役立っているとの仮説を立てた。
奥野浩行:東京大学医学部統合生理
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