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薬と医師と患者さん、それぞれの商業主義?

薬と医師と患者さん、それぞれの商業主義?

製薬会社各社も1企業であり、利益を追求し商業主義を行使するのは当然のことでしょう。

ですから、製薬会社の商業主義に全く正当性がないわけではありません。

そもそも、企業における創業理念の根本は、如何なるものであったのでしょうか?

ただ単に利益を追求する為に「起業」されたのでしょうか。

そんなことはないと思います。

ドラッカーは、

企業にとっての「利益」とは、

社会の公器としての企業が、

人間の自由と幸福を実現するために必要とされる条件の1つである。

しかし、

利益自体を目的としてはならない!

と教えています。

現在まで生き残っている企業の多くは、その「起業」者の「起業」時の信念には、

広い意味での社会貢献の要素が含み込まれていたはずです。

製薬企業とて同様ではないでしょうか。

私が医学部に進学する前、犬猫病院の獣医師を志し鳥取大学獣医学科で学んでいたのですが、

動物実験要員としてでしょうか、シオノギ製薬から毎年入社案内が実家に送り届けられてきていました。

シオノギ製薬で働くことはありませんでしたけれど、

神戸大学で整形外科の研修を受けるようになったとき、

医師への接待の仕方がシオノギ製薬だけ他社と違うところがあり印象に残りました。

当時、今から30年くらい前のことですが、当時は、まだまだ製薬会社が医師を料亭などで接待することが普通でした。

私たち研修医でさえ料亭で高額の飲み食いをさせてもらった時代でした。

そんな中、シオノギ製薬だけは飲み食い接待は本社から禁止されているということで、飲食の接待は一切なく(上級医師とくに教授などに対しどうであったかは研修医の身ゆえに定かではありませんが…)、

代わりに、学会前にシオノギ製薬のプロパーさん(現在のMRさん)が医局で深夜までスライドや原稿の清書作成を手伝ってくれるという他社とは違う接待をしてくれたのでした。

こういう風に印象に残ったシオノギの企業理念は次のようなものでした。
__________________________________
≡ホームページより引用≡
・シオノギは、常に人々の健康を守るために 必要な最もよい薬を提供する。
そのために
・益々よい薬を創り出さねばならない。
・益々よい薬を造らねばならない。
・益々よい薬を益々多くの人々に知らせ、使って貰わねばならない。
・創り、造り、売ることを益々経済的にやりとげねばならない。
そのために
・シオノギの人々のあらゆる技術が日々休むことなく 向上せねばならない。
・シオノギの人々が、人間として日々休むことなく 向上しなければならない。
その結果
・シオノギの人々は日々の仕事と生活に益々生甲斐を覚える。
・シオノギの人々の生活の仕方が益々改善せられる。
・シオノギの人々の生活が益々豊かになる。
_________________________________

他の会社の企業理念を調べたことはありませんが、多分、同じような理念を持っているのではないかと思います。

シオノギ製薬の理念も基本的にはドラッカーの基本的考えと同様、

社会貢献を基本に、

社会貢献を従業者の喜びとし、

社会貢献し続けるために経営を維持しなければならない、

その結果、社員も幸せになる!

と言っていいのではないでしょうか。

ここで話はちょっと方向転換させていただきます。

1999年に本邦初のSSRIが上市されたのと機を一にして、


注)「機を一にして」は「軌を一にする」を誤用した表現で、「時期が同じくらいで」というような意味でよく使われていますが、正確には誤用ですm(_ _)m

うつ病と診断される患者さんが急増しました。

その増加率は、9-10年で2.5-3倍となっています。

これは更に近年の注意欠陥障害ADHDと診断される患者さんの急増とは少し異なる意味合いがあるように思われます。

ADHDの場合は、

10年20年前では医師さえその障害を知らないという状態で、

多くの患者さんがADHDを自分の性格特性と勘違いして、

自分の生きにくさを、人間としての機能の悪さからであるとして悩み込んでいました。

本邦でも、「片づけられない女たち」という本の発売を契機に、一般にもADHD(当時はADD)という障害が認識されるようになりました。

治療薬の上市とともにADHDと診断される患者さんが急増したところは似ているのですが、

うつ病の急増とは異なります。

それは、

知られていなかった障害が認識され、

治療の機会を得られるようになったということ、

患者支援団体も啓蒙活動に積極的役割を果たしているということでしょうか。

うつ病の場合は、うつ病という病態は昔から一般にも広く知れ渡っており、

患者支援団体ではなく製薬企業が広報活動を積極的に行いました。

「うつ状態≒うつ病≒危険&怖い→でも早期に治療すれば大丈夫→うつは心の風邪ですからこじらせないようにしましょう→治療≒抗うつ薬の服用→風邪の薬のようだものだから抗うつ薬も怖くない→早期発見早期治療が大切→早めに心のお医者さんにかかりお薬をもらいましょう!」

というような広報骨子でしょうか。

早期発見早期治療の啓蒙は製薬企業の社会貢献と言っていいでしょう。

問題は、企業利益の追求のあまり、抗うつ薬のネガティブデータを公表しなかったことでしょう。

未公表データの解析を含む最近の研究によれば、

抗うつ薬が統計的に有意に効果が認められるのは、重症うつ病患者に対してのみであるということが分かって来たのです。

つまり、軽症および中等度症状レベルのうつ病患者さんには、抗うつ薬はメリケン粉と同様程度の有効率しかないということが分かったのです。

日本うつ病学会も、2012年に軽症うつ病の第一選択治療から抗うつ薬投与を外しました。

つまり、心の風邪状態程度では抗うつ薬は使っても効果はありませんよ!と宣言したようなものです。

私たち精神科医として、うつ病治療のあり方を考え直さなければならないということでしょうか。

一方で、患者さんにとってはどうでしょうか?

うつ状態にある患者さんにとって、抗うつ薬とは、

上記の見解と違って、至ってありがたいものなのです!

というのは、

服薬は手間いらず!

ということなのです。

軽症うつ病に推奨されるストレス環境の調整やら、

生活リズムの改善とか、

運動習慣をつけるとか、

光を浴びたり、

過度な飲酒を控える、

などなど、煩わしい努力を一切しなくて服薬だけして治れば本当に楽なのです。

就床時刻を規則正しくかつ十分な睡眠時間を確保できる時刻にするとか、

運動習慣をつけたり飲酒を制限するなど、

生活習慣を改善することは、意欲が低下していない健常人でも難しいことです。

それを意欲や気力が低下しているうつ病患者さんが実行することは至難の技です。

ストレス環境の調整にしても、

簡単に調整できないからストレスになるのです。

気力の低下したうつ病患者さんがストレス環境の調整をするなどおいそれとできるものではありません。

また、うつ病患者さんに重要な精神科医によるカウンセリングにしても、

初診時を除いて、1回1時間も取ってもらえるわけではありません。

当院では、必要な時には20-30分の面接時間をお取りできるよう配慮してるのですが、

毎回確実にお時間をお取りはできないのが実情です。

ストレスに関するご相談は、最低限20-30分の時間は必要でしょうけれど、

特に1日に受診される患者さんの数が30-40人を超える医療機関では、

1人当たりに取ってもらえる診察時間は5-10分というのが実情ではないでしょうか。

このような状況でストレス要因をご相談するのは難しいでしょう。

そうなると、

お薬で治れば、

患者さんにとっても医師にとっても非常に手間いらずということになるのです。

患者さんの数が多ければ多いほど、

お薬頼みということになりがちです。

患者さんにとっては、

考えたくないストレス要因に対処したり、

元気な時にさえできない生活習慣の改善や運動を習慣づけて実行したり、

気を紛らわせる飲酒(その時だけの一時凌ぎで中長期的には害悪となる)を控えたり、

などなど煩わしい努力をせずに、

お薬を飲むだけで良くなるならそれに越したことはないというのが、

患者さんにとっての商業主義と言えるでしょう。

医療機関にとっても、

お薬と短時間の診察だけで患者さんに有益な結果をもたらすことができれば、

患者さんに喜ばれ、

多くの患者さんを診れるので収益が上がりる、

という医療者側の商業主義に合致するということになります。

さらに、先に述べた製薬企業の広報活動によりお薬が売れることで製薬企業の商業主義も満たされる。

つまり、患者さん・医療関係者・製薬企業の全ての商業主義的ニーズが満たされることになります。

お薬で簡単に短期間で治ればメデタシめでたしということなのです。

ところが、先の報告にように、

軽症から中等症のうつ病に抗うつ薬はメリケン粉程度しか効果が期待できないということですから、

話は複雑になってきます。

薬がメリケン粉程度しか効かないなら、製薬企業のニーズはともかくとして、

患者さんの(商業主義的?)ニーズも満たされなくなってしまうのです!

抗うつ薬がメリケン粉程度しか効かないのであれば、

江戸時代ころから効果が経験的に認められている(厳密な調査研究によって確認されているということではありません)漢方薬ならメリケン粉以上であるとして投与したりするのがいいのでしょうか?

これが困ったことに、

前記の報告と異なり、漢方薬よりは、抗うつ薬の方がはるかに効果があるという印象があるのです!

漢方が効く頻度と抗うつ薬や安定剤が効く頻度の比は、およそ「2対8」というところでしょうか。

私の場合、

療養生活の指導を行ったうえで、

薬物療法に関して言えば、

環境の多少の調整が可能であるか、

1-2週間は全く今の状態が改善しなくても耐えられるという「主観的思い」があるか、

いずれかなら

「漢方薬から治療を始めましょう」と提案しています。

その結果は、

漢方で治療を開始した患者さんのうち、

8割くらいが通常の抗うつ薬や安定剤に変更することになっています。

抗うつ薬と安定剤のいずれが効果的なのかは分かりません。

抗うつ薬のセロトニンやノルアドレナリンとか、

安定剤のギャバとか

そういったお薬の薬理特性が効くのか?

服薬してボーっとするとか多少眠いとかいう体感特性が、患者さんにとって効いているという安心感が得られることで、抗うつ効果を示すのか?

それは定かではありません。

「効いているという安心感」が一番の効果要因なら、

副作用を含めた服薬後の体感に加えて、

お薬は効く!という患者さん側の思い込み、

漢方薬よりは普通のお薬の方がよく効く!これも患者さん側の思い込み、

効くはずのお薬をくれる医師自身に対する患者さんが抱く信頼感、

こういった要素が、

軽症から中等症のうつ病治療に、

漢方薬より抗うつ薬の方が効く!

という私の実感の要素になっているのかもしれません。

軽症うつにも、抗うつ薬は実際に効果があります。

しかし、

それは抗うつ薬そもののが効果を示すのか?

治療行為と患者さんの思い込みと副作用を含む薬理体感の総合要素が効果を示すのか?

どちらが正しいのかは分からないのです。

けれど、前記のごとく厳密な調査によれば、軽症から中等症のうつ病に抗うつ薬はメリケン粉程度しか効果がないというのですから、

後者が効果を発揮しているというのが真実に近いのではないでしょうか。

これが真実であるとするなら、

私たち精神科医は、

患者さんの信頼を得られる診療態度(当然、証拠に基づく医療であるのですが)と、

より深刻な副作用のない薬剤の選択を留意するということが求められるのかもしれません。

そして、症状が軽減して認知の再構成のための心理療法が可能となってからは、

再発防止のための心理療法に力を注ぐことが求められるのではないでしょうか。

そういった方向で日々の診療に従事して行きたいと思っています^ - ^

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