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トラウマは直す方法がある!私には無理ですがm(_ _)m

トラウマは直す方法がある!私には無理ですがm(_ _)m

第119回日本精神神経学会学術総会での認知行動療法の日本における第一人者として知られる、千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学・子どものこころの発達教育研究センターの「清水 栄司」先生の教育講演が行われました。タイトルは「うつ病、不安症、慢性疼痛の認知行動療法とイメージの書き直し技法」というものですが、普通の精神科クリニックでは行えない難しい治療法であるとは思うのですけれど、トラウマに苦しむ方々も多いので、概要だけでも紹介しておきます。

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トラウマ

トラウマの体験はPTSD(心的外傷後ストレス障害)だけに生じているものではありません。うつ病や不安障害においてもフラッシュバック様のネガティブなトラウマ様の体験が蘇って想起されることがよくあるといいます。これを「侵入思考」というそうなのですけど、この侵入思考を軽減するための認知行動療法の介入技法として「イメージの書き直し(imagery rescripting)という治療法があるとしています。

イメージの書き直し

このセッションでおこなわれることは、

  • うつや不安と関連するネガティブなイメージを同定する
  • そのイメージがどのようなトラウマ的な記憶につながるかを同定する

侵入してくるイメージや記憶は、うつ病や不安障害の病気を維持するような中核的な認知の歪みと関連していることが多いということらしいので、

  • その認知の歪みを明らかにする
  • その認知の歪みの再構成をする

ことで問題を整理していくのだそうです。ところが、この認知の再構成だけで病気が治るほど患者の心の傷つきは軽くはないことが多いので、次のような3つのステップからなるイメージの書き直しを行うというのです。

第一ステップ:第一人称での想起言語化

第一段階のステップは、トラウマ的な記憶を一人称で主観的に思い出し、言葉にする作業だそうです。ここで多くの方は、トラウマ的記憶からの感情に巻き込まれてしまうリスクがあるので、短時間しか診療できない通常外来で行わない方がいいのでは?と私は思うのですが・・・

第二ステップ:客観的観察化言語化

トラウマ的な記憶をメタ認知的に、三人称で客観的に語る作業。客観視するには心の強さが必要です。客観視できる人は通常の社会生活で支障なく機能しています。主観的苦痛が著しく、自ら治療を求める場合は本格的カウンセリング(認知行動療法など)を受けるといいでしょう。けれど、多少の苦悩はあっても、十分に社会的に機能できているのであれば、あえて治療までしなくていいのではないかと思います。何故なら、通常の診療では治せませんから。

第三ステップ:物語の作り直し

トラウマ記憶の「シナリオを書き直し」て自分の望むような結果に変える作業をするというのです。

  • すべてをコントロールできる力を持つ自分を
  • その当時の記憶の場面に登場させて
  • 自分を攻撃してくる人物を指導したり
  • 癒しの力を持つ自分が当時の自分をいたわるような言葉や態度を示す

このようにイメージすることで、バッドエンドであった記憶をハッピーエンドのシナリオにと、人生における「物語」を書き直すというのです。

私見

以上のような作業(かなり私見と私なりの言葉を入れています)を通じて、侵入イメージや侵入記憶のつらさが改善されることが示されているということですけど、このような治療が一般のクリニックの通常診療でできるとは思えません。おそらく、深いトラウマを受けた方は治療中に情緒的な混乱状態に陥ったり、人格変化が生じている場合には治療者に攻撃的になることがあるかも知れません。治療セッテイングを1回50分週に1回以上にする必要があるでしょう。それ以上に、治療者側がトラウマの認知行動療法や精神分析療法の十分な教育と研修を受けており、かつ、十分な治療経験を持っているということが必須でしょう。そして、患者さん側が、この治療に耐えうるだけの最低限の心の強さを残し持っているということが、何よりも大切な要素かも知れません。心の傷が深い方からすれば、安易な共感的言葉は「何が分かるというの?」という思いがするかも知れません。出来ることはしたのだから自分を責めなくてもいいのじゃないですか?というメッセージも、病的罪悪感を抱く方にとっては「理解してもらっていない!」との思いが募るかも知れません。一般診療では傾聴がリスクの少ない方法ですけど、これすら、人格変化が生じて被害的となっている方には、「無視されている!」「何もしてくれない!」と認識されてしまう可能性さえあるのです。それだけトラウマの治療は難しいものなのです。

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