長期的使用に優れている睡眠薬はどれ?
長期的使用に優れている睡眠薬はどれ?
システマティック・レビューとネットワーク・メタ解析という信頼性の高い研究調査手法で、睡眠薬の評価を行った研究報告があったので要約して紹介します。オックスフォード大学(英国)の研究です。
評価項目
以下のごとき項目の判定を行ったとのことです。
- 有効性
- 睡眠の質や満足度に関する患者の評価
- 治療中止
- 理由の如何を問わず服薬を中止した患者の割合
- 忍容性
- 副作用(有害事象)によって服薬を中止した患者の割合
- 安全性
- 1件以上の副作用が生じた患者数
以上の項目を、投与4週間後もしくは投与後1~12週間(早期)および投与3ヵ月後より長い時点(長期)で評価したようです。対象となった症例は約9万人となっています。
結果
調査の結果は以下の如くでした。
早期の有効性について
プラセボ(偽薬)より有効であったのは
- ベンゾジアゼピン系(最も使用されている睡眠薬)
- エスゾピクロン(商品名ルネスタ)
- レンボレキサント(商品名デエビゴ)
- ゾルピデム(商品名マイスリー)
- ゾピクロン(商品名アモバン)
でした。
注)ただし、調査されていない睡眠薬もあるものと思われます。
また、ベンゾジアゼピン系(最も使用されている睡眠薬)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ゾルピデム(マイスリー)およびゾピクロン(アモバン)は、
- メラトニン(商品名メラトベル[小児のみ適応])
- ラメルテオン(商品名ロゼレム)
よりも有効でした。
早期の治療中止について
以下の睡眠薬は、ラメルテオン(ロゼレム)よりもあらゆる原因による中止率が30%ほど低かったとのこと。
- 中間作用型ベンゾジアゼピン 0.72倍
- 長時間作用型ベンゾジアゼピン 0.70倍
- エスゾピクロン(ルネスタ) 0.71倍
早期の忍容性について
副作用による服薬中止が多かったのは以下の睡眠薬であり、その中止となるリスクの程度はプラセボに比べ以下の如くでした。
- ゾピクロン(アモバン) 2.00倍
- ゾルピデム(マイスリー) 1.79倍
また、ゾピクロン(アモバン)は以下の睡眠薬に比べて服薬中止となるリスクが高かった。
- エスゾピクロン(ルネスタ)に対し1.82倍
- スボレキサント(商品名ベルソムラ)に対し3.13倍
長期の有効性について
プラセボ(偽薬)より有効であったのは
- エスゾピクロン(ルネスタ)
- レンボレキサント(デエビゴ)
でした。また、ラメルテオン(ロゼレム)とゾルピデム(マイスリー)より長期的に有効であったのは
- エスゾピクロン(ルネスタ)
でした。なお、ベンゾジアゼピン系(最も使用されている睡眠薬)については利用できるデータがなかったということです。
長期の治療中止について
ラメルテオン(ロゼレム)と比較して中止率が低かったのは
- エスゾピクロン(ルネスタ) 0.43倍
- ゾルピデム(マイスリー) 0.43倍
長期の忍容性について
プラセボに比べて副作用による中止が多かったのは
- ゾルピデム(マイスリー) 2.00倍
各研究の終了時点での安全性(副作用)について
副作用の発現は、プラセボなどと比べて以下の睡眠薬は1.27~2.78倍リスクが高かったようです。
- ベンゾジアゼピン系
- エスゾピクロン(ルネスタ)
- ゾルピデム(マイスリー)
- ゾピクロン(アモバン)
また、ゾピクロン(アモバン)については、以下の睡眠薬よりも副作用の発現が多かったようです。
- レンボレキサント(デエビゴ)
- メラトニン(メラトベル)
- ラメルテオン(ロゼレム)
- スボレキサント(ベルソムラ)
副作用
副作用としては以下のようなものが他のものより多く見られました。
- エスゾピクロン(ルネスタ)とゾルピデム(マイスリー)
- 眩暈・吐き気
- ラメルテオン(ロゼレム)
- 倦怠感
- レンボレキサント(デエビゴ)
- 頭痛
- その他の睡眠薬
- 過剰鎮静
- 眠気
【結論】
長期使用で総合的に優れている睡眠薬
良好であった睡眠薬は
- エスゾピクロン(ルネスタ)
- レンボレキサント(デエビゴ)
だと思われたとのことです。けれど、エスゾピクロン(ルネスタ)には副作用が多く認められ、レンボレキサント(デエビゴ)は安全性のデータが蓄積されていない点で注意が必要であるともコメントされています。
私見
睡眠薬の中ではエスゾピクロン(ルネスタ)とレンボレキサント(デエビゴ)が総合的に優れた睡眠薬であるとの結果ですけれど、エスゾピクロン(ルネスタ)は服薬翌日に口が苦くなって気持ち悪いであるとか、1日中ご飯がまずく感じるなどという副作用の派発生が多く、とくに若い人(20~30代)には不評で、他の睡眠薬に変更するよう求められることが多いです。レンボレキサント(デエビゴ)は新しいタイプで依存性のないとされる睡眠薬ですけど、従来の睡眠薬ほどには効果がなく、朝起きてからの眠気が残るという現象がよく生じます。不眠のお薬についてはこれが絶対にいいというようなものは存在しないというのが現状ではないでしょうか。睡眠をよくするためには、
- 朝決まった時間に起きる
- 午前8時までに屋外で30分は日光を浴びる
- 適度な運動を習慣づける
- カフェインの摂取を制限する
- 入浴や運動はベッドに入る2時間以上前には終えておく
- スマホやビデオなどのブルーライトの出るものを寝る2時間以上前には使用を終えておく
などの生活習慣の改善が睡眠薬より重要であると思います。
情報源
Franco De Crescenzo et al, Comparative effects of pharmacological interventions for the acute and long-term management of insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis., Lancet (London, England). 2022 07 16;400(10347);170-184. pii: S0140-6736(22)00878-9. https://www.binasss.sa.cr/jul22/47.pdf